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「…私は命日には、駅から"この道"を通ってお花を渡しに来てた」
「こら珠杏。嘘をつくな」
「え…」
「私は、じゃなくて、"私たちは"だろ」
またしても鋭い節の指摘に言葉が詰まる。唾液を喉に流して乾燥を必死に潤そうとしていると「知ってるに決まってるだろ」と些か低く落ち着いたトーンが耳に届く。
「毎年ま〜〜くだらない言い合いしながらも臨と2人で来てくれてたから俺も安心してたし」
「…やっぱり、ずっと、見てたんじゃん」
へなへなの声で非難してしまった。ビー玉のように透き通った無垢な瞳を丸くして私を暫く見つめた節は「しまった」と頬を掻く。
あの日以来、私が節の姿を見られるようになることは、この6年間一度だってなかった。
『――――お姉さん、1人っすか?』
さっき、節が道の途中で突然現れて声をかけてきた時。何処か悔しくてはやる心臓に気付かれたくなくていつも通りを装ったけれど、本当はとっくに泣き出してしまいたかった。
目に角を立てて目の前の男を凝視していると、勝手に縁に涙が溜まってしまう。
「…時間差で泣くなよお」
「泣いてない、怒ってる」
「……見てたよいつも。お前が俺をこっそり探してくれてたのも、臨に嘘を吐き続けてんのも」
『――あの場所、行くんだろ』
『…良いよ来なくて。節も気を違うなって言ってるし』
『何時?』
『いやなんで無視なの?』
もしかしたら「命日なら節が会いに来てくれるかも」と邪な気持ちも抱えて此処を訪れる時、律儀なあの男は必ず私に付き添った。じっと唇を一文字に結んだ仏頂面のまま、私の気が済むまで付き合ってくれた。
「珠杏と臨、もう流石に今年はくっつくだろと思って見てんのにまあ何年も焦れ焦れモジモジ、限度あるわ、おバカ!」
「……節が1番、分かってるでしょ…?」
「何を」
「――そんなゴール、私に辿り着く権利無いよ」
頼りなく声が揺れ続けるのを止められない。涙を沢山含んだ言葉を、自分に刻みつけるように伝えたら苦しさで勝手に胸が圧迫された。
「…だから、今年は一緒に来なかった?」
「……、」
「お前、臨から本当に離れるつもり?」
頬を濡らしていくものを確かに感じながら、全てお見通しの節の声にただ、頷いた。
このどうしようもない恋に呪いをかけたのは紛れもない私だ。
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