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『…臨"も"、側に居てくれるの』
『さっきからそう言ってんだろうが』
そう約束した仏頂面の男は、私が想像していたよりもずっとずっと、何倍も律儀だった。
『…え、なにこれ』
『赤本』
『……何故…?』
『馬鹿か?受験生だからだろ』
図書委員の仕事でカードを整理していると、突然カウンターに分厚い、受験生を複雑な気持ちにさせる赤色のカバーの本が置かれた。
『お前英語得意だろ、3年分の過去問の長文訳して。俺は数学解くから』
ずかずかと隣に座ってきた臨は、同じ赤本の別のページを開く。確かにこの大学は、節にも志望校として伝えて「頭ヨイ〜〜!」と呑気に褒められたところだ。――でも。
『…臨、私、受験生にとって大事な夏休みに何一つ勉強しなかったから。後悔とか無いけど流石にもう第一志望は諦めてて』
『なめてんの?"2学期からが受験生の本番"ですけど』
『……あ、はい…』
元々鋭い目元を一層鋭くしてこちらを凄む臨に、完全に気圧された。臨の志望校は、聞きたくても意地っ張りが邪魔して聞けなかったからまさか同じだとは思わなかった。いつも受験勉強に付き合ってくれる、真剣に問題に向かう男の端正な横顔が、瞼に焼き付いていた。
『――宮脇さん』
『あ、山下君』
『……多賀谷のこと、その、大変だったね』
私と節がずっと一緒に居たことを知っている人ほど、彼が居なくなった事実を歯切れ悪く私に伝える。ただ笑い返すしか出来ずにいると「でも保城とは付き合えたんだ」と、何の代わりにもならない話題をぶつけられた。勿論否定すれば「大学も合わせたんじゃ無いの?」と戸惑ったように質問を重ねられる。
『…いや、偶然被っただけで』
『え、でも保城って京都の大学の推薦も取れてた筈だけど』
『……え…?』
「宮脇さんと居るために志望校変えたんだと思った」と、山下君の何気ない言葉が胸を強く締め付けた。
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