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――無事に大学へ進学しても。
『お前の飯の概念、なに?炭水化物を摂れ』
『…うるさいな、あんまり食欲無いんだよ』
『流石にゼリー飲料だけはやめろ』
学部だって違うのに、定期的に私を見つけては小言を吐いてきた。それに可愛く無い返答をすることがもっと上手くなった。
『臨、その子誰?』
周囲に臨を狙う女子なんて、高校時代と同様に山ほど居て。そういう子たちからしたら私の存在ほど得体の知れない掴めないものは無いだろうと分かっていた。
――"節が"
それでも私が時折口にする、臨にとっても親友の名前一つであの男は必ずこちらに目を向けてしまう。最低だ。臨が誰かと出会って恋をする可能性を、私は奪い続けた。
卒業した私は、関東圏に数十店舗のイタリアンレストランを展開させる企業に就職した。2年間は実店舗でみっちり修行だと言われて、日々忙しく働いた。
『いらっしゃいま…、なんだ臨か』
『接客学び直せ』
法学部を卒業した臨は、公認会計士を目指すべく資格の学校に通い始めた。元々頭の良いこの男の選択は、いよいよ別の未来に進んでいくのためのものだと覚悟したのに。学校と私の働くお店があまりにも近距離で、ランチなどに顔を出すようになった臨に呆気に取られた。
『よく通ってくる親しげなイケメン、彼氏ですかあ?』
『まさか、違うよ。高校の同級生』
『凄い偶然ですね!?腐れ縁ってやつですね?』
『……どうだろ』
その"縁"を認めてしまうことに違和感があった。
高校のクラス会に参加して、未だに近くに居る私と臨をみんなが指摘してくることが増えても、私はそれを受け入れるわけにはいかない。
私とあの男は断じて、偶然が繋いでくれる腐れ縁なんてものでは無い。
――『節が居たことも、お前の気持ちも。一生俺が覚えておく。忘れないから安心して良い』
臨を縛り付ける呪いを、私がかけているから。律儀に臨が離れようとはしない、ただそれだけだ。
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