4.その回り道に、愛しさの行方

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「…嘘吐きだ…」 ぽつりと呟くと、不服そうに目を細めて睨みを利かせる男が、歯切れ悪く再び言葉を繋ぐ。 「夏休みに、"節が側に居る"ってお前に言われた時。俺もこのバカのことずっと探してたから、気持ちが分かった。……居るって、信じたかった気もする」 『節、此処にいんの?』 『うん、今、"臨ちゃんの熱烈なハグ苦しい〜〜"って言ってる』 『……馬鹿』 抱き締めあった時の苦しさを思い出して、意図せずまた涙が頬を滑り落ちる。ぎこちなくそれを拭い取る骨張った指は、どこまでも優しかった。 「え、どうしよ。2人とも俺のこと大好きじゃん」 「…お前は本当に何をしてたんだよ」 「なんもしてない」 「は?」 私達の隣でいつもの笑顔を携えた節は、「でもお前らに会いにくるつもりは無かった」とそのまま伝えた。 「どうして…?あの日のこと、怒ってるから?」 震える声で問いかけると「おバカ」と軽く跳ねられる。寂しげに微笑んだ節が「嫌だったんだよ」と続けた。 「姿見せたら勿論、2人が俺を見つけてくれるの分かってたけど。頼るの嫌だった。だって、"見える"ことは、お前らが苦しんできた部分も大きい力だろ」 私が痛みを抱えた姿を近くで見ていた男の優しさが、心に流れ込んでくる。臨にもきっと、そういう過去があったのだと同時に思う。 「だからお前らが、ちゃんと幸せになってくれればそれで良いって決めてたのに」 深く溜息を漏らす節は、私と臨を交互に見やり、「お前らほんっと、しょうがねえなあ」と昔のように笑う。 「この6年間、何で成仏できないかなって思ってた。お前らが上手くまとまらないからかって考えてたけど、流石にそこまで俺もお人好しじゃないわ。俺は俺なりの、後悔がある」 けたけた笑った節が、真っ直ぐに私を見る。触れられないと分かっていて、頬に手を伸ばしてくる男の温かさを、私はちゃんと感じたような気がした。
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