4.その回り道に、愛しさの行方

8/12

1117人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
「……珠杏」 「…ん?」 「ずっと家族愛に近いとか、そういう風に自分でも思ってきてたけど。俺、お前のことが大好き」 ビー玉をはめこんだような、濁りのない瞳が透き通る眼差しで私を射抜く。脈略なく告げて白い歯を見せて笑う節に、また眦から涙が溢れていった。 「…せつ、」 「珠杏、お前もちゃんと言え」 全てをお見通しな幼馴染が、いつも素直になれないどうしようもない私を優しく導いた。「大丈夫だから」とまるで言ってくれている節の手に、例え触れ合えなくても、自分のものをそっと重ねる。 「……私も、節が、大好きだよ」 「うん」 「―――だけど、節の好きとは、違う」 『珠杏いっぱい友達見えるだろ!?気になるやつはどんどん誘え!』 『珠杏、お前、俺の高校来れば』 『大丈夫だって。"3ヶ月遅れのクラスメイト"でも、ちゃんと歓迎してもらえる』 大事にしたい思い出ばかりをくれる幼馴染への気持ちこそが「恋」なのだろうかと、自分の中で推測してみることもあった。 『――節に教えてもらった通学路、まだ覚えられねえのかよお前は。そっちじゃなくて右に曲がんだよ』 『節が居たことも、お前の気持ちも。一生俺が覚えておく。忘れないから安心して良い』 でも、どこまでも未熟な私は、感じたことのない気持ちを嫌というほど与えられて漸く、その感情の名前を知る幼さを抱えていた。 一番近くに居たい。誰にも渡したく無い。綺麗だけで片付けられないその感情が向かうのは、たった1人だけだ。 「…私はずっと昔から、臨にだけ恋してる」 洪水のように流れていく涙をそのままに漸く伝えると、目の前の節が「そっか」と何処かホッとしたように受け止めた。 「でも珠杏さ、恋じゃなくても俺のこと大好きだろ?つまり愛じゃんそれ」 「う、うん…?」 何故か繰り返してくる節に同意すれば、ふむと頷く男が嬉しそうに笑った。 「珠杏、一個だけお願いある」 「なに?」 「――お前にとってのその愛は、他に譲んないで」 幼い子供のようなお願いの仕方に、笑っていたいのにまた沢山泣けた。 「……節みたいな人、もう人生で出てこないよ」 「確かに」 鼻声で何も心配要らないと伝えれば、愛しい幼馴染は屈託なく微笑んだ。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1117人が本棚に入れています
本棚に追加