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不恰好に嗚咽が漏れはじめて、ありったけ涙する私を両腕でしっかりと支えてくれる臨も、泣いているのだと分かった。しがみつくように回した大きな背中が、寂しさを堪えるように震えていた。
節。
節、ごめん。ごめんなさい。
世話の焼ける私たちの所為で、――天国に行く道でさえ、あまりにも長く、遠回りをさせてごめんね。
「珠杏」
「……ん…?」
「周りにお前とのこと、腐れ縁って言われるの好きじゃ無かった」
「…うん」
「どんだけ俺が、必死で側に居たと思ってる。そんな偶然で片付けられると腹立つ」
「え、」
少しだけ距離を離して私を見下ろす男が、涙でぐちゃぐちゃに濡れた頬に遠慮がちに自分の手を添えた。
「お前のこと、"可哀想"なんて思ったことねえよ。俺がお前と居たのは、そんな理由じゃない」
『――臨。もう、私のことが"可哀想"って、思わなくて良いんだよ』
私たちの回り道には必ず、理由があった。
おバカな幼馴染と仏頂面の男が、私から怖さを避けてくれるための優しさの証拠だった。
居場所を無くしたくないと素直に縋り付けない自分達の悔しさを昇華したかった。
臆病な私達が、本当の気持ちを伝え合うことを避け続ける苦しさの入口でもあった。
そして。
「お前が好きで、愛しいから。無理矢理でも、側に居たかっただけだ」
――ちゃんと最後は、愛しさに繋がっていた。
もっと、臨の顔が見たいのに。大粒の涙の所為でぼやけてしまった視界が勿体無くて、必死に瞬きを増やした。ふと笑う男が、優しく指で拭って手伝ってくれる。
「…臨」
「なに」
「あんた、なんでそんな自分のことだと鈍いの」
「お前が分かりづらいんだろうが」
む、として睨みあげるたのに、いつもの鋭い瞳が真っ赤で、キラキラと涙を含んで濡れていて、思わず顔がほころんだ。
「昔から、ずっと1人だけだよ」
「……」
「「好き」って言うのに、どうしても勇気が必要なのは、臨だけだよ」
最後まで伝え切る前に、目の前を陰で覆われて唇を塞がれた。
荒っぽさなんて微塵もなくて、丁寧に優しく、辿々しく感触を確かめるようなキスは何よりも愛しかった。
暫くしてそっと離されて、24歳にして恋愛経験値は最低を誇る私の顔は面白いくらいに赤く染まっていたと思う。
じっと覗き込んで可笑しそうに笑う臨を殴ろうかと思ったけれど、結局優しく抱き締められて、今は大人しくその腕の中に収まることを選択した。
4.その回り道に、愛しさの行方
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