記念番外編「"ハッピーラッキーボーナスポイント"」

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―――――――― ―――― ――――この店には、 “常連客”が居る。  コンビニなんて毎日数えきれないほどの人と対峙するわけで、正直言ってレジの前に立っていてもそこまで熱心に客の顔を見ることは無い。大学入学と同時期に働き始めて、もう三年目。  一通り仕事を把握した俺は、流れ作業のように労働をこなしている部分も大きい。でも、そんな俺でもしっかりと認知している常連客が居る。  きっかけは、春の陽気に踊らされるようにどこか浮足立った四月が終わりを迎えた頃、店長からの忠告だった。 「――高校生?」 「そう! 近くの高校のね。多分この春に入学した新入生でさあ。通学路からこの店はちょっと外れてる筈なのに、律儀に月曜日の朝に来ては、品出ししたばっかりのジャンプ立ち読みすんの。見かけたらちゃんと注意してね」 「あー……、はい! 了解っす」 「うわ、不安」 「え?」 「本井(もとい)君の返事って分かりやすいんだよね。今のは、全然了解してない時の適当な返事」 「てんちょー、すごいっすね」 「感心してる場合じゃないからね?」  流石、付き合いも長くなってきただけのことはある。心に充満していた「面倒だなあ」は、店長に即刻バレていたらしい。分厚いレンズの眼鏡越しに放たれる彼の鋭い視線から逃れるように、苦い笑みを浮かながらお菓子売り場の陳列を行う。 「向こうも強敵なんだからさ。もっと気合入れてよ」 「……え、強敵ってなんですか。もしかして不良系高校生なんですか? マジで無理です。俺、こう見えて真面目系大学生なんで」 「『こう見えて』って言われても。おじさん、ギャップ感じるほど本井君のこと知らないし、興味も無いんだよね」 「辛辣過ぎません?」  隣で一緒に陳列を手伝ってくれる店長は「まあ、今度早朝シフトの時は注意してみてよ」と珍しく俺に念を押した。
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