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「あーー、暇っすね」
「いや、暇とか無いから。お客さん居ない間にモップ掛けしちゃってよ」
「はーい」
「絶対やらないじゃん、その腑抜けた返事」
今日は、比較的客足が落ち着いている夕方の時間帯のシフトに入っていた。やる気の無い俺に注意をする店長も、口を尖らせながらスマホをいじっている。
俺以上にやる気無いんですけど、この人。
やれやれと店の外へ視線を投げると、すっかり夕方の景色に変わっていた。夏の厳しい暑さが通り過ぎて秋へと差し掛かる今、心持ち早く訪れるようになった夕暮れには寂しさが滲む。同時になんとなく、何かを埋めるようにあの笑顔を思い出してしまう。
「そういえば今日月曜ですけど、朝来ました?」
「んー、いや。見かけてないね」
「え、珍しい。じゃあ今週のジャンプはまだ読めてないんですね。可哀想に」
「ちょっと。僕は最初、『立ち読み常習犯の彼を注意して』って言ったと思うんだけど」
「だって可愛いじゃないですか。店長もホントはそう思ってるんでしょ」
「……あの子さ、俺に目つけられてると思ってるのか別人を装うためにたまに顎突き出しながら来店したりするんだよ。その発想にもはや完敗だよね」
「ほっこりエピソード過ぎて笑いました」
店長が教えてきた“常連客”は不良系高校生ではなく、なんというか、おバカ系高校生だった。結局俺は、一度も彼を注意していない。
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