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「はーーー、そろそろモップ掛けするかあ」
「お。気合入れてお願いね」
「は~い」
「うわ、その返事ダメなやつ」
「――――ほら珠杏! 勝負な!」
相変わらず返事一つで全てを察する店長に笑いつつ、バックヤードにあるモップを取りに行こうとした時だった。溌剌とした声に視線が向く。入り口には、さっき話題に上ったばかりの“常連客”と――もう一人。
「ちょっと節。声が大きいってば」
彼を窘める白と淡い水色のセーラー服姿の女の子は、この夏から突然見かけるようになった。節君に誘われるようにやって来る彼女は、目鼻立ちがはっきりとしていて落ち着いた雰囲気を纏う。
常にハイテンションの彼とはあまり結びつかない。それに、いつも何処か不安そうな目をしているのが気になった。
初めて見かけた時には「彼女ですかね⁉」と興奮して休憩中で仮眠していた店長を叩き起こして報告したものだ(めっちゃ怒られた)。
「良いですか! 制限時間は十分です! 値段見ずにカゴにお菓子入れて、合計金額が五百円に近い方が勝ちな」
「……ほんとにするの?」
「え、するよ!? だって、今度の校外学習に持っていくお菓子選びゲームを楽しみに、俺は今日の部活頑張ったんですけど?」
「節ってやっぱりおバカだね」
「お前、よくそんな真顔で失礼なこと言うね? 俺も怒る時は怒るんだよ?」
「ごめんね」
「良いよ」
「ほら」と彼女の腕を引いてお菓子コーナーを目指す彼の今日の目的は、ジャンプでは無いらしい。モップがけは、ちょっとお預けだ。
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