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それから十分後、それぞれのカゴにお菓子を沢山入れた二人のお会計が始まった。
先に素早い手つきで彼女が「お願いします」とカゴを俺に差し出した。
「全部で四八〇円です」
「えええ⁉ 珠杏すげーーー!? ニアピンじゃん。お前さてはめっちゃヤル気満々だったな!?」
「そんなわけないでしょ」
丸い瞳をキラキラ輝かせて言う彼の隣で、少し恥ずかしそうに俯きながら小銭をこちらへ差し出す彼女の頬が若干赤い。
「さて、次は多賀谷節選手です! まあ俺すげえ自信あるけどな、負けません」
「私、別に勝ちたくないんだけど」
「お前はまぁた、そんなこと言って~~」
言い合いをする二人の前で、あっさり俺のレジ打ちは終わった。そして「五五五円ですね」と事実を告げる。
一瞬、二人に沈黙が訪れて、おにぎりコーナーで在庫を数えていた店長が堪えきれない笑いを漏らしたのが分かった。俺も必死に真顔を保つ。
「……ちょっと、節。しっかりオーバーしてるじゃない」
「えええええ!? やばくね!?」
「何がやばいの」
「ご、五五五円だよ!? ゾロ目じゃん!!」
そう大きな声で主張した彼の元々大きな瞳が、もはや零れ落ちそうなほど見開かれていた。突然の興奮具合についていけず、四八〇円分のお菓子を胸に抱えた彼女も、レジ前の俺も同じようにポカンと口を開く。
「しかもゴーゴーゴー! 縁起良くね!? ということで俺の勝ち~~~」
「なにそのルール……!」
「たまに爆誕するハッピーラッキーボーナスポイントで〜〜す」
無茶苦茶な彼の理論に「意味わかんない」とツッコむ彼女は、徐に口元に手を当てた。でも、ふにゃりと目尻を下げる柔らかな表情は、全く笑顔を隠せていない。
初めて、この子の“年相応”の姿を目撃した気がすると勝手に推測していると、隣の彼がホッとしたようにこっそり息を吐き出した。
『いつも一人で頑張っちゃう臨に、ハッピーラッキーボーナスポイント差し上げまぁす』
――――嗚呼、そういえば。
彼がこの不思議なポイントを口にするのは、いつも誰かを笑顔にしたい時だ。
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