1119人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと本井君、何間抜けな顔でぼうっとしてるの」
「眩しいな~~って、感傷に浸ってんすよ。邪魔しないでください」
「あのね。僕一応、君の雇用主ね?」
視界を遮るように険しい顔を近づけてくる店長が、やれやれと肩を竦めた。
「てんちょー」
「なに? 休憩ならまだあげないよ」
「ケチ」
「はい減給」
「すみません」
「よろしい」
「ねえ、てんちょー」
「だから何」
「店長って、なんでコンビニの店長やろうって思いました?」
「……え?」
無意識のうちに零れた言葉にはっとしたのは、全てを言い終えた後だった。
まずい、今、全くそんな流れじゃなかったのに。
慌てて「すみません」と言おうとすると、俺の直ぐ隣まで近づいてきた店長が顔を覗き込んでくる。
「なかなか壮絶な物語があるけど、聞く?」
「え、まじすか?」
「他の人が聞いてどう思うかは分かんないけど。僕の中ではそれなりに色んな道を辿って此処に辿り着いてるんだよ。みんな、そんなものでしょ」
「そう、ですか」
どこか噛みしめるように返事をしてしまった。俺の反応にふと笑みを漏らした店長が、ぽんぽんと肩を叩く。
「僕からしたらさ。今、もがいてる君も充分眩しいけどね」
大学三年にもなれば、嫌でも「進路」は付き纏う。自分が行くべき道は一体どこに伸びているのか。色んな企業の説明会に参加しても、面接でそれ相応のガクチカや志望動機を述べてみても、ピンとは来ない。
絶賛モップ掛けをサボっている俺は、コンビニの制服姿の時以外は殆どリクルートスーツ姿で彷徨う就活生というやつなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!