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「本井君、今度のシフト遅番でしょ。飲みに行こうか」
「え、珍しい」
「まあねえ、ほらたまには。アレ」
「アレ?」
「“ハッピーラッキーボーナスポイント”。就活と並行して頑張って働いてくれてる意外に真面目系大学生にも、たまにはあげようかなって」
「意外に、は余計ですけどね」
「頑張るのは良いけど、身体、無理はしないように」
「……はい」
「あ、今のはちゃんとした返事だった」
やっぱりこの人は、返事一つでお見通しらしい。俺が思わず破顔するのを見届けた店長は、満足げに今度は冷凍食品の在庫チェックへと向かった。
『ハッピーラッキーボーナスポイント差し上げま〜〜す』
――――この店には、 “どうにも気になる常連客たち”が居る。
誰かを笑顔に出来る魔法の呪文のように、勝手にこの不可思議なフレーズが伝授されていることも、ましてやコンビニ店員にやたらと自分達を観察されていることも、きっと彼等が知ることは無いのだろう。
「……もうちょっと、歩きますか」
それがどんなに、回り道だったとしても。
歩いて歩いて、何か辿り着けるものがあるのかは不明だとしても。
まだ、輝く年下の子達を羨んでいる場合でも、年上の優しい上司に心配をかけ続けている場合でも無い。
俺も誰かに“あの呪文”を使える側になれるように。
もう少し踏ん張る時だと背伸びをして、今度こそモップを取りに足を踏み出した。
「"ハッピーラッキーボーナスポイント"」
完
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