4番の過ごし方

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4番の仕事。フォア・ボールを選ぶ事よりも、ランナーを帰す事。援護射撃をすること。 全打席ホームランを狙う事。 ヘッド・スピードを磨く事。「しんどいです、しんどいです」言わない事。 誰もがひそかにねらっているポスト。だけに、実力の差の見せどころ。 ランナーを出しながらも抑えてるエースを楽にしてやる男。 ルーキーが踏ん張ってるときにはホームランを打つような男。 ときに笑いをいれてチームメイトを和ませる。 チームのキャプテンじゃなくても、笑いのキャプテンでなくてはならない。 「あいつが打たれへんかったらしゃーない」チーム内でそういう空気ができあがっていなくてはならない。 そして誰よりも走る。準備が10割だ。 真芯でとらえた打球がバック・スクリーンに突き刺さった。 今日はあえて忍者みたいな動きでベース・ランニングをする。 今晩のおかずを考えながら、ダイヤモンドを一周する。 花束をもらうときにしりポケットから出した電話番号を渡す。笑顔も受け取る。教科書通りの基本中の基本。 ロッカールームで鳴り続ける携帯。前の女。「一回くらい…」出てやりよ、というニュアンスでいってくる3番バッター。 「おれも知ってる子やから、おれんとこ掛けてくる。何で出てくれへんの、と」でもおれは出ない。 出たら最後、3時間は喋ってくる。電話は嫌いだ。 バットを振る時間がなくなる。 試合が終わる。ダッシュで女のもとにいく。性欲は旺盛。アナウンサーをしてる女。 「こんど、旅行いこ」おれは返す「それだけはご勘弁を」 女との喧嘩。一時期のぷっつんアイドルぐらいナーバスになってる。「すまなんだ」 パワーセックスが裏目に出る時もある。「AVの見過ぎやわ」返す言葉はなかった。 主砲の一発が不発。 盛者必衰。前4番のレジェンドが抜けた穴を埋めるため、俺が走る。走ってなんぼ。 学生時代、クラス対抗リレーを選ぶ際、好きな子に言われた「走って」 コーチから言われた「足は手の3倍力がある」 あれから走って走って走った。気が付けばトップランナー。 蝶を追いかけたら山頂にいたみたいな。 下半身の、特にふくらはぎの筋肉は誰にも負けない。 バッター・ボックスに入ったら、 ルーティーンとヒッチとコック――つまり予備動作が大事。 シマウマを襲う直前のタイミングを計るライオンの感覚。 ボールだけを見る。出足でタイミングを計る。 脱力し、弓道のようにテイクバック大きくとる。右ひじを絞る。インパクトの瞬間に最大限の力がかかるように。 きた球の軌道にフラットにあわせる。跳ね腰のように力を伝える。 4番として。チームの顔として。球団オリジナル弁当一番人気の俺として。 来る。振る。打つ。飛ばす。そして、稼ぐ。 好きとか嫌いとか、抱くとか抱かないとか、そんなことはどうでもいい。 入団以来、一発サインの俺。 近くの銭湯にて、 無意識に選ぶ、靴箱の番号は「6」。 少年のオレの脳裏に焼き付いて離れなかった、あのヒトのプレー。 20年間遠ざかっている、日本一。 俺のバットで、あのヒトを胴揚げ。 風呂上がり。手は腰に、で飲む瓶の牛乳。 明日は日本シリーズ第7戦。 膝に爆弾抱えてようが、コーチが心配しようが、人生最後の日であろうが、明日も朝から走り込み。 ★★★ モニターから聞こえてくる足音で朝、目が覚める。 アンドロイドに自作の歌を歌わせたボーカロイドってのが昔、流行ったみたいだが、 今は宅飲み用キャバ嬢のアンドロイド、キャバロや、 小説家や劇作家のように作ったストーリーを スマホアプリ内で俳優アンドロイドに演じさせる劇ロイドなるものまで開発された。 性格やスペックなど細かい設定をしてやれば放置プレーですすむ。 もっとも、おれが今作ってるのは、 まだ後付けでいろいろ足していってる途中で、ほぼ同じ1日を無限に過ごしているままだ。 なので朝の定刻になるとちゃんと主役アンドロイドは緑地を走り出している。 目覚まし代わりになっている。
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