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序章「愛すべき民」
「貴方達が何者であろうと、私は貴方達を恨みはしない!」
凛とした声でその国最後の女王は言った。
「エーダ様!」
召使いの男は、反逆を起こす市民と隣国の騎士に剣や農具を突き立てられ動けないままに叫んだ。
「ルドフィン。ごめんなさい」
凛とした声のまま謝罪とは別に儚げに笑った女王は続ける。
「貴方には、最後まで私のことで振り回してしまいましたね」
「おやめ下さいエーダ様…!!それではまるで…!!」
「良いのです。私も今更情けの恵みを乞うつもりは毛頭ありません、こうなったのは私のせい。民も国も守れなかった私の無力が招いたことなのです」
大きな窓際まで追い詰められた女王は最期の言葉を向けた。
「この国の民が私を嫌っていても、私は民を愛し続けます!私がこの国に居たという証をここへ!」
そう言って女王は短剣を懐から取り出し、その長い緩い三つ編みの束を持って、なんの躊躇いもなく刈り取った。
そしてその束を皆に掲げた後に足元に落とす。肩上の短髪に様変わりした女王は、一歩下がった。その場にいる誰もが目を疑う行為だった。この国では女性が短髪になるのはご法度だったからだ。
「この国の民全員に感謝しています。ありがとう。そしてごめんなさい」
女王はそう続けて後ろの割られた大きなガラスの窓から身を投げ出しながら最期に言った。
「誇り高き我国の民よ、永遠に共にあらんことを!」
「エーダ様ァァ…!!」
女王が居なくなった女王の広い部屋で、召使いの男の咆哮だけが女王に花を手向けていた。
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