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最期の晩餐
ばちゃりと、生々しい音が鳴った。
彼女から切り離された腕は、離れても尚美しい。
白い肌と浴槽に赤が散って、花が咲いたみたいだなんて思った。
事切れた彼女は悲鳴も上げなければ、抵抗もしない。
それにほんの少しだけ、私は優越感を抱いた。
いつもはしてやられてばかりだったから。
「どうして、泣いていたの?」
涙の跡が残る頬に触れる。
冷たくて、無機質で。
ああ、本当に居なくなってしまったのだと。
認めたくない事実をまた、目の当たりにしてしまった。
何度も、何度も繰り返す。
腕を、脚を、胴体を、首を、精一杯の力を込めて。
丁寧に。
電話越しに聞いた彼女の声は、今でも耳に残っている。
『もう、疲れちゃった。ごめんね』
それだけ言い残してぶつりと切れた通話。
それから何度かけても、彼女が出ることはなかった。
ずっと一緒にいようって約束したのに、
「どうして私も連れて行って、くれなかったの 」
答えはもう二度と帰ってこない。
冷えて硬くなった心臓は、思っていたよりも小さかった。
流れた赤い血が、彼女の生きた証だと思った。
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