最期の晩餐

1/2
前へ
/2ページ
次へ

最期の晩餐

 ばちゃりと、生々しい音が鳴った。  彼女から切り離された腕は、離れても尚美しい。  白い肌と浴槽に赤が散って、花が咲いたみたいだなんて思った。  事切れた彼女は悲鳴も上げなければ、抵抗もしない。  それにほんの少しだけ、私は優越感を抱いた。  いつもはしてやられてばかりだったから。 「どうして、泣いていたの?」   涙の跡が残る頬に触れる。  冷たくて、無機質で。  ああ、本当に居なくなってしまったのだと。  認めたくない事実をまた、目の当たりにしてしまった。  何度も、何度も繰り返す。  腕を、脚を、胴体を、首を、精一杯の力を込めて。  丁寧に。      電話越しに聞いた彼女の声は、今でも耳に残っている。 『もう、疲れちゃった。ごめんね』  それだけ言い残してぶつりと切れた通話。  それから何度かけても、彼女が出ることはなかった。  ずっと一緒にいようって約束したのに、 「どうして私も連れて行って、くれなかったの 」    答えはもう二度と帰ってこない。  冷えて硬くなった心臓は、思っていたよりも小さかった。    流れた赤い血が、彼女の生きた証だと思った。  
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加