爽やかに舞う風に乗せて

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由緒正しき、伝統のある全寮制学校。 男子校である我が校では年に一回、紳士の嗜みとして舞踏会なる行事があった。 全校生徒の中で一番ダンスが上手い人に指名され、その二人を中心に、うさぎに扮した生徒達と共に踊るのだという。 また、この時期が来てしまった。 踊るのが大の苦手で、興味が無い者にとっては苦痛な時期だった。 今回も仮病を使おう。 ため息を吐きながらそう決心し、寮へと帰ろうと外廊下を歩いていた。 何気なしに、明り取りのために縦に楕円状に大きくくり抜かれた壁の外、中庭へと視線を向けた。 男子生徒が一人、踊っていた。 薔薇の植込みに囲まれて優雅に舞っている。 それは、花に舞う蝶のようで、穏やかに吹く風のようで。 まるで誰かと踊っているかのような錯覚に陥る。 降り注ぐ日差しの中、より神秘的にも見える光景。 その男子生徒がピンと背筋を伸ばし、こちらへ一礼するまで、自身が夢中になって見ていたのを気づかなかった。
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