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「ねぇ、どうして僕ら以外の生徒が皆、うさぎの格好をしているか、知ってる?」
「ぇ、·····っと·····」
佐久来にとっては初めて見る光景。最初は自分と違う格好に、加えて心の無い言葉に孤独を覚えたが、今改めてそう質問された時、そういえばどうしてそんな格好をしているのだろう。
考えても考えても何も思いつかず、「分からない」と答えると、「そっか。それはね、」と前置きをする。
「あるところに、愛し合う二人がいました。だけど、そんな二人を両親は赦してくれるはずもなく、二人を無理やり引き離したのです。のだけど、それでも二人は一緒にいたい。しかし、片親にそれぞれ連れて行かれ、どちらともの居場所が分からない。途方に暮れた時、一羽のうさぎが現れたのです。その黒うさぎに導かれたそれぞれは、薔薇の植え込みに囲まれた、沢山の黒うさぎがいる場所へと再び巡り会え、それからは二人は年に一回会う約束をしたのが元だって言われているんだ。その約束した場所が、あの中庭だって言われてる」
「それは、知らなかったな」
「ただ単に学園長の趣味ってウワサもあるけど」
「さっきのメルヘンチックとの差が激しい·····」
「ふふ·····だから、この物語を聞いたら、まるで僕らのようだって思えてきたんだ。あの中庭へと導かれて会えた運命のようなもの。素敵だと思わない?」
こつんと額と軽めに当てられ、いつも以上の近さにどぎまぎとしてしまい、「う、うん、そうだね」と言うのが精一杯だった。
と、ふいに額から離し、「そろそろ終わりだよ」と片手が離れ、前へと向き、そして、礼を取る。
終わった。
のだが、つい先ほどの風舞の行動にまだ高鳴りが止まらないのであった。
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