68人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
しばらく進むと、道の両脇に白い天幕が連なり、その下で人々が店を出していた。果物や野菜、魚や肉などを購入する地元民らで賑わいを見せていた。
「珍しい? 街出身なら当然か」
興味深く周囲を見回すクレイドに、レオンスは求めてもいない反応を示した。
クレイドはゴホンと空咳をして視線を逸らす。
「なぜ、街出身だと?」
「見たら分かるよ。その荷物が楽器だということもね」
彼はそう言って笑ったが、一方のクレイドは顔をしかめた。
「そんな顔しないでよ。ほら、果物でも奢ってあげるから」
そして、レオンスは市場の果物屋に颯爽と一人で向かった。
色鮮やかな果物を両腕に抱えたレオンスは、小走りでクレイドの元へ戻って来た。
「これ食べたら機嫌直してくれる?」
機嫌を損ねているとかの問題ではないのだが、とクレイドは反応に困っていると、レオンスに果物を一つ押し付けられた。
「あ、ありがとうございます」
クレイドは形式張って礼を述べて、それを拒否することなく受け取った。
「律儀だねえ。疲れない?」
「これが性格なので」
***
クレイドはそろそろ足を休めたいと思い始めていた頃、レオンスが運良く足を止めた。
「店に到着!」
そう言って、左側に建つ古びた木造二階建ての建築物を指で示した。
建物の背後には青々とした草木が生い茂り、ここが店だと言われなければ廃屋と勘違いしていただろう。
「……お店、なんですよね?」
「うん、酒場を兼ねた宿屋だよ。夕方着の船なら、アルマンに行く途中で一泊する必要があるからね。案外需要はあるよ」
最初のコメントを投稿しよう!