第3話 合流

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「そこの者たち、こんな日暮れに何をしている?」  単なる夜間巡回としての声かけなのか、一人の騎士が隊列をはずれて近づいてきた。  クレイドがわずかに後方に下がると、レオンスは堂々と会釈した。 「夜分遅くまでお疲れ様でございます。今、私たちは帰宅途中でして。幼い子が眠ってしまったようで、先を急いでいたところです」 「では、なぜこのような時間に子供を連れ回しているのだ?」  騎士はいかにもレオンスの装いを怪しんでいるようだった。声に不信感が表れている。  レオンスは控えめに苦笑すると、フードを深く被ったクレイドに視線を向けた。 「……ここだけの話ですが、彼女は元夫から逃げているため、あまり人目に付きたくないとのことで。やむを得ず、この時間になってしまったのです」  騎士はレオンスの顔近くにランタンを寄せると、その顔をまじまじと見た。 「おっと……」  あまりの眩しさに、レオンスは顔を手のひらで遮った。 「……まあいい、わかった。念のために聞いておくが、お前は何者で、何の仕事をしている?」 「職業は詩人でございます。私は知人である彼女を助けるため、新天地となりうる新しい家へ案内する途中でして。……ああそれと。私は怪我を負って片目を覆わねばならないゆえ、顔は見苦しいでしょうが、どうかお許しを」  レオンスはその場で深々と頭を下げた。 「……まあいい。礼節をわきまえているようだからな。一般人なら、夜警に咎められる前に家路につくように」  レオンスは顔を上げると控えめに笑った。 「ええ、ありがとうございます。……ちなみに、そちらの状況、どうやらただ事ではないようですな?」  騎士は返答に迷ったのか、ウェリックス公爵が立つ方向を振り返る。  視線を向けられた公爵は、その騎士に呼びかけた。 「まだ一般人に話すようなことではない。全ては明日分かることだ」  その言葉にクレイドは一瞬だけ身体を震わせた。  ――明日、何かが起こるのか?  騎士が形式的にこちらに一礼すると、隊列へと戻っていった。  「……本当にやるつもりかい? あんたは後悔しないのかい?」  再び歩き始めた隊列から、ミセス・ヴェルセーノの声が聞こえた。 「これ以上、姉上を嘘つきの罪人にさせたくはない。ならば、私が手を下すしかないのだ。刑罰は明日告知する」 「あの子らに手を出したら許さないよ」 「それは全く別の話だろう。その約束はあなたの嘘によって破綻したはずだ」 「ふん、私が死んだら化けて出てやるさ」  クレイドは布に包んだヴァイオリンを両腕に抱えたまま、その場で立ちすくんでいた。連れ去られようとしているミセス・ヴェルセーノを、今すぐにでも助け出したかった。  公爵らの隊列から声が聞こえなくなると、レオンスは左目を覆った変装用の布を上げた。同時に、クレイドを覆う黒いフードもわずかにめくり上げる。 「ここは少しの辛抱だ。今は圧倒的に不利な状況らしいけど、何とか作戦を考えよう」
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