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第4話 策謀と実行
ミセス・ヴェルセーノの家へ到着すると、クレイドは裏口の扉を叩いた。
何度か同じことを試しても応答はなく、やむを得ず主の許可なく扉の取っ手を捻ってみる。
すると、扉は施錠されておらず、すぐに開いた。
この家の中にロディールとリェティーがいるのではないかと想定していたが、驚くほどの真っ暗闇である。
ウェリックス公爵側の人間が潜んでいる可能性も排除できず、いまだ二人は変装を解くことなく室内に足を踏み入れた。
レオンスは玄関先に設置されたランタンを見つけて手に取ると、目を凝らしながら蠟燭に火を灯した。
その瞬間、クレイドにとって馴染み深いミセス・ヴェルセーノの家が目の前に浮かび上がった。一切荒らされた形跡もなく、それが尚のこと不気味だった。
「これを見てどう思う?」
レオンスが尋ねた。クレイドは顎に右手を当てて、視線を横に逸らした。
「公爵側の人間はいないかと。誰かが隠れているとすれば、俺に一箇所心当たりがあります。俺も行ったことはありませんが、この家には地下があるんです」
クレイドがランタンを手に持ち、二人は地下へ続く階段を下りた。一歩踏み込むたびに足音がカツンカツンと響く。
「誰だ?」
地下の方から、警戒心を帯びた声が室内に反響した。聞き覚えのある声だった。
「ロディールか?」
クレイドの問いかけに、相手方からも確認の質問が届いた。
「もしかして、クレイドか?」
クレイドは声の主と顔を合わせると、全身に纏っていた変装の布を剥ぎ取った。その瞬間、リェティーが一目散に駆け寄って、抱きついた。
「お兄さま……!!」
「リェティー!!」
リェティーがクレイドの服に顔を埋めた。鼻を啜る音が聞こえて、クレイドはその背中を静かにさすった。
「遅くなって、ごめん。色々と大変な思いをさせちゃって、本当にごめんよ……」
ロディールがクレイドの前にやってくると、覇気のない瞳でクレイドを見た。
「どうして戻ってきた? ……って本当なら言いたいところだが、そうも言えない状況になっちまった。イゼルダさんが、捕まったんだ……」
本当なら衝撃を受けるべきところだろうが、先に状況を知っていたクレイドは落ち着いて頷いた。
「実はそのことで、策を練りたいと思ってるんだ。俺たちと同じウェリックス公爵の被害者で、頭の切れる協力者がいるんだ」
レオンスが頭に巻いた布などの変装を取ると、軽く会釈した。だがその表情は強張っており、視線は定まらず泳いでいた。
「……名前はレオンス。期待されるのって、わりと苦手なんだけど」
歯切れの悪い言い方に、ロディールが眉を寄せた。正直、ロディールがレオンスの第一印象を見て良いイメージを抱くとは思えなかった。クレイド自身がそうであったように。
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