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クレイドは、ミセス・ヴェルセーノがウェリックス公爵に連れて行かれることになった理由や、ロディールとリェティーが地下に隠れていた理由をすべて聞いた。
本当ならば、今日の日没の鐘が鳴る頃にミセス・ヴェルセーノとウェリックス公爵が広場で待ち合わせをしていたはずだった。ところが、公爵が約束の時間を待たずしてミセス・ヴェルセーノの家にやって来たという。
これは全くの想定外だった。公爵の意図など分かるはずもなかったが、その場で公爵がリェティーと顔を合わせてしまったことにより、態度を急変させたという。
ロディールは完全に頭を抱えていた。
「イゼルダさんは、なぜ匿っていたことを黙っていたのか、と奴に追及された。誰も弁解できなかった。……あの怒り様を見て、俺たちはあることに気がついたんだ」
「何だ?」
「奴の目的はクレイドじゃない。……逆だったんだ。リェティーだったんだよ」
クレイドは一瞬呼吸を止めた。既にわかっていたことだったが、ロディールの口からは聞きたくない言葉だった。
「明日、イゼルダさんに課す刑罰を民衆の面前で告知するらしい。俺らの処遇はその後だとよ」
ロディールは肩を竦めると、そのまま脱力した。
「でも、そんなのおかしいだろ? 公爵は、このまま俺たちが逃げる可能性くらい想定――」
クレイドは言いかけて、途端に口を手で塞いだ。酔いが回ったような、最悪の気分に身体を震わせた。
壁側に無造作に寄せてある椅子に、レオンスがゆっくりと腰を下ろした。
「つまり、この子を逃さないために、あえて今は放置しておいたわけだ。明日、イゼルダさんが民衆の面前で裏切り者として断罪されたらどうだ? 少女の誘拐犯だ、って告知されたらもう逃げ場はない。リェティーちゃんを保護しようとする人間も出てくるだろうし、俺たちだってここには居られなくなるだろうね」
レオンスがリェティーをちらりと見る。
リェティーはその視線から逃げるようにクレイドの背後に隠れた。
「もっと他に言い方があるでしょう?」
クレイドは語尾を強めた。ロディールが不安そうにリェティーを見る。
「クレイドの言うことはもっともだ。だが、レオンスさんの言葉が真実だろうな」
「ロディール! じゃあ、どうしろって……!」
「まあまあ、仲の良しのお二人さん。それなら奴より先に策を講じればいい。一応、俺にちょっとした策があるんだけど」
クレイドを含めた全員の視線がレオンスに向けられた。
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