64人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 貴婦人の告白
クレイドはイルスァヴォン男爵邸の門前に立っていた。隣にはリェティーが凛として立っている。
ウェリックス公爵にリェティーの存在を知られた今、クレイドは彼女を隠す必要がなくなった。家にリェティーを一人だけ残すこともできず、ましてやミセス・ヴェルセーノの罪がこれから告知されるということもあり、行動を起こすならば今しかなかった。
あとは男爵がアルマンからスベーニュに帰還していることをただ願うだけである。
「お兄さま、大丈夫ですか?」
「……うん。今ここで俺にできることをやらないとね」
背後から馬の蹄の音が聞こえたかと思うと、途端に背後で鳴り止んだ。クレイドは警戒して、咄嗟にリェティーを庇うように立ち塞がった。
馬車から降りてきた人物は貴族の女性と娘らしき少女であった。二人は気品こそ漂うものの、くすんだ緑色の洋服に身を包み、あえて似合わない服を着ているようにすら思えた。
「何をされているのです? イルスァヴォン男爵邸に御用ですか?」
女性の問いかけに、クレイドは戸惑いを隠せずにいると、リェティーがひょっこりと横から顔を出した。
悪事を働いているわけではないのに、言い逃れできないような気がした。クレイドはリェティーと顔を見合わせると、その親子も互いに不思議そうに顔を見合わせた。
そして、親子の視線が再びクレイドとリェティーに向けられた。
「もしかして、クレイド?」
「あなた、リェティー?」
クレイドは目を丸くして少女を見ると、そのまま凍りついた。見覚えのある顔だった。ウェリックス公爵の娘ティフェーナだ。
そのすぐ横で、女性が腰をかがめてリェティーに微笑みを向けた。
「覚えてる? あなたのお母さん……エリーズの妹のマリアムよ」
リェティーは疑り深く、大きな瞳でマリアムの顔を見据えた。
クレイドは左腕でリェティーを後ろに引き下がるよう促すと、マリアムに尋ねた。
「あなたこそ、イルスァヴォン男爵に御用ですか?」
「ああ、あなたに名乗らず問いかけるのは失礼でしたね。私はウェリックス公爵夫人のマリアムと申します。この子は娘のティフェーナ。私はリェティーの叔母です」
クレイドは顔を引きつらせたまま、軽く会釈した。リェティーに上着の隅を引っ張られて、クレイドはわずかに振り返る。
「お兄さま、私がお話します」
リェティーが小声でそう言うと、マリアムの前に堂々と立った。
最初のコメントを投稿しよう!