第2話 貴婦人の告白

1/4
前へ
/244ページ
次へ

 第2話 貴婦人の告白

 クレイドはイルスァヴォン男爵邸の門前に立っていた。隣にはリェティーが凛として立っている。  ウェリックス公爵にリェティーの存在を知られた今、クレイドは彼女を隠す必要がなくなった。家にリェティーを一人だけ残すこともできず、ましてやミセス・ヴェルセーノの罪がこれから告知されるということもあり、行動を起こすならば今しかなかった。  あとは男爵がアルマンからスベーニュに帰還していることをただ願うだけである。 「お兄さま、大丈夫ですか?」 「……うん。今ここで俺にできることをやらないとね」  背後から馬の蹄の音が聞こえたかと思うと、途端に背後で鳴り止んだ。クレイドは警戒して、咄嗟にリェティーを庇うように立ち塞がった。  馬車から降りてきた人物は貴族の女性と娘らしき少女であった。二人は気品こそ漂うものの、くすんだ緑色の洋服に身を包み、あえて似合わない服を着ているようにすら思えた。 「何をされているのです? イルスァヴォン男爵邸に御用ですか?」  女性の問いかけに、クレイドは戸惑いを隠せずにいると、リェティーがひょっこりと横から顔を出した。  悪事を働いているわけではないのに、言い逃れできないような気がした。クレイドはリェティーと顔を見合わせると、その親子も互いに不思議そうに顔を見合わせた。  そして、親子の視線が再びクレイドとリェティーに向けられた。 「もしかして、クレイド?」 「あなた、リェティー?」  クレイドは目を丸くして少女を見ると、そのまま凍りついた。見覚えのある顔だった。ウェリックス公爵の娘ティフェーナだ。  そのすぐ横で、女性が腰をかがめてリェティーに微笑みを向けた。 「覚えてる? あなたのお母さん……エリーズの妹のマリアムよ」  リェティーは疑り深く、大きな瞳でマリアムの顔を見据えた。  クレイドは左腕でリェティーを後ろに引き下がるよう促すと、マリアムに尋ねた。 「あなたこそ、イルスァヴォン男爵に御用ですか?」 「ああ、あなたに名乗らず問いかけるのは失礼でしたね。私はウェリックス公爵夫人のマリアムと申します。この子は娘のティフェーナ。私はリェティーの叔母です」  クレイドは顔を引きつらせたまま、軽く会釈した。リェティーに上着の隅を引っ張られて、クレイドはわずかに振り返る。 「お兄さま、私がお話します」  リェティーが小声でそう言うと、マリアムの前に堂々と立った。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加