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「まず先に、叔母さまは誰の味方なのか教えてください」
リェティーの反応が予想外だったのか、マリアムは困ったように笑った。
「もちろん、私はあなたの味方よ。血の繋がった親族じゃない。ずっと心配していたのよ、あなたに会いたかった」
「では、どうして今ここに?」
「用事があったの。ここに住むアンドレに話したいことがあって。できることなら、今すぐにあなたと一番最初にお話したいんだけどね。……ああ、アンドレというのは私の義弟で、アンドレ・ウェリックスと言うのだけど……」
クレイドは聞き覚えのある名前に目を細めた。
「お会いしたことがあります。そこまで話したことがあるわけではないのですが……」
アンドレはイルスァヴォン男爵の使用人の中でも特に真面目で優しく、接しやすい人柄だったはずだ。まさか彼がウェリックス公爵の実の弟ということなのだろうか。
「アンドレはとても優しくて、あの人とは大違い。クレイドと言ったかしら、あなたの話は娘から聞いていますよ」
クレイドが言葉を発する前に、リェティーが毅然とした態度で口を挟む。
「叔母さま、私はウェリックス公爵を信用していません。申し訳ありませんが、今回のお話はここまででお願いします。時間がありませんので」
「ご、ごめんなさい。話をそらしてしまって。でも、これだけは分かってほしいの。私は本当にあなたの味方なのよ。私がここへ来たのは、あの人への反抗から。私も同じく時間がないの、だから早くアンドレに伝えたくて。早くしないと、お義姉さんが罪に……」
お義姉さんという言葉に、クレイドは眉をピクリと動かした。
「もしかして、ミセス・ヴェルセーノのことですか? 今、彼女はどうしているんでしょうか。彼女の罪とは、一体どんな――」
「あの方は幽閉されています。今日の夕刻、広場で罪を告知されるはずです。私には止められないので、ウェリックスの毒に染まっていないアンドレに相談しに来たのです」
クレイドは厳しい目でマリアムを見据えた。
「あなたが止められないものを、イルスァヴォン男爵に仕えるアンドレさんが止められるとお思いですか?」
「私はアシルの妻ですが、彼を止めることはできません。所詮はよそ者なのです。どうしても、変えることのできない現実があるのです」
クレイドは無意識的にマリアムに対して憐憫の眼差しを向けた。現状を変えようとする意志がマリアムには欠如している。その裏にあるものは、ウェリックス公爵への絶望か、恐怖か――。
いずれにせよ、クレイドには一つ確認しておかなければならないことがあった。
「教えてください。リェティーの今までの暮らしについて、あなたは一切知らなかったのでしょうか。……つまり、あなたは見て見ぬふりをして、ウェリックス公爵を止めなかったわけではないのですか?」
マリアムは目にじんわりと涙を浮かべて、うつむいた。
「……本当に何も知らないのです。ですから、私は全てを教えてほしいと思っています。私にできることなら、何でもしますから……」
クレイドはリェティーの肩にそっと手を置いて、ゆっくりと頷いた。
「分かりました。あなたの言葉を信じましょう。こちらには公爵を止めるための案が一つあります。リェティーとミセス・ヴェルセーノを救うために、協力していただけませんか」
マリアムは虚ろに目を伏せながら、わずかに口角を上げた。
「きっと、その代償は反逆として大きくつくのでしょうね……。私にできることはあるのですか」
「ええ、今から同じ相談をイルスァヴォン男爵に持ちかけるところでした。せめて、お話だけでも聞いていただければと思いまして」
「分かりました。ご一緒させてください」
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