第49話 美味しい低糖質な日々

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第49話 美味しい低糖質な日々

 「うーん……何度食べても美味しいなぁ。本来、高野豆腐の煮物って苦手なんだけど真緒理のは美味しい。ふわふわしていて麩の煮物みたいだ」  瑠伽は満足そうに笑いながら、高野豆腐の煮物を咀嚼した。瑠伽が美味しそうに食べている姿を見るの、秘かに大好き。幸せだなぁ、と実感するから。だって、私が作ったもので瑠伽の体が出来上がる訳だから。言わば夫の健康管理は、食生活を取り仕切る私の料理のにかかっている訳で。勿論、夫婦の形はそれぞれで、夫婦の数だけ存在するから正解なんてないのだけれど。元々、瑠伽は放っておくと食事には無頓着になるタイプだから、食事に関する全ては私が担当しないと。彼が海外に仕事に仕事に行く際は、その都度外食する際のアドバイスをするようにしている。外泊が続けばどうしても食物繊維が不足しがちになるから、低糖質のお菓子と同時に粉寒天を持たせる事にした。飲み物にサッと混ぜるだけで気軽に食物繊維が取れるからだ。 「分かるよ、私も元々は高野豆腐の煮物、苦手だったもの。ほら、味付け云々の問題じゃなくて食感がボソボソで喉が渇くというかさ」 「そうそう、あれだ……を食べてるみたいな食感!」 「それだ! 食器洗う時さぁ、手元のスポンジを見てしみじみ思う時あるもの。なんかね、高野豆腐をお水で戻して絞る時の感覚とよく似ているの」 「ならぬまでそうなんだね?」 「ふふふふ、の字違い、確かに。うん。ホントによく似てるんだよ」  今日の夕飯は、高野豆腐と卵の煮物がメインだ。味付けは水、御酢、ラカント、出汁醤油(昆布出汁でも鰹節出汁でも良いが私は半々にしている)と瑠伽の言うように、高野豆腐が麩のようにとろとろに柔らかく煮るには、弱火でコトコトじっくり煮込むと良い。殻を向いたゆで卵は、高野豆腐が柔らかくなった頃に入れて一緒にコトコト煮込むのだ。隠し味にバターを入れると、濃くが出てより美味しくなるのでお勧めだ。他には、ブロッコリーとチンゲン菜の蒸し野菜にボイルした甘エビを添えに、MCTオイルに御酢、岩塩を混ぜたドレッシングで味付けをしたもの。エリンギのオリーブオイル焼き、塩で味付け。飲み物は熱い玄米茶だ。食後には例によってブラックコーヒー。  今朝は白菜と小松菜、シメジ、木綿豆腐、そして鳥団子のお鍋だった。御酢と水、出汁醤油のタレで食べる。豆腐が白米の代わりなのは言うまでもない。更にはオクラと納豆をMCTオイルと御酢、醤油で和えたもの。飲み物は温かい麦茶だった。  「昼に食べたパスタは格別だったな」 「サーモンクリームパスタ、好きだよね、瑠伽」 「うん、ミートソースもナポリタンも良いけど。まぁ、瑠伽が作ったものなら何だって美味しいし。なんだかんだ、もうすっかりされてるよ」 「そう? それなら、頑張って低糖質レシピの勉強をして良かったな、て思う」  ちょっとお互いに照れ笑いする。何より、瑠伽が『食べる事』に関心を持ってくれた事が嬉しい。食べる事=生きる事だ。瑠伽の血糖値、血圧内臓脂肪諸々、すっかり正常値になった。ストレッチ、ウォーキング、筋トレも可能な限り二人で行うようにしている。細かった瑠伽の体型が、しなやかな筋肉が付きつつある。腹筋が割れはじめたと喜んでいた。益々男ぶりが上がって、日々恋し続けている。  そうそう、パスタは少々値が張るが、大豆で作ったグルテンフリーのものがかなりの低糖質でお勧めだ。これなら、気にせずにパスタが食べられる。味付けを変えたなら焼きそばにも出来る。ただ、トマトケチャップやソースは糖質が高いから、低糖質のものにするのと粉寒天を少し混ぜる事で繊維も一緒に取る事がお勧めだ。砂糖はラカントにする事は言うまでもない。  気軽に作る事が出来る塩焼きそばや、サーモンクリームパスタは瑠伽のお気に入りだ。サーモンクリームは、焼き鮭をほぐして生クリームと豆乳を混ぜ、味付けに韓国海苔をちぎって入れるだけなので非常に簡単だ。  今日のおやつは、低糖質プリンだった。卵と豆乳、ラカント、バニラエッセンスを混ぜてマグカップに流し込み、荒熱が取れたら冷蔵庫で冷やすだけ。また、ここにカカオ70%以上のチョコレートを梳かして一緒に混ぜると、低糖質なチョコレートプリンになる。食べる時、生クリームとラカントを混ぜてホイップしたものを乗せて食べても良い。胡桃やアーモンドを添えても美味しいだろう。  「子供が出来たら、もう少し甘めに味付けしてこんなデザート、喜びそうだね」 と瑠伽は屈託ない笑みで私を見た。  「そしたら、瑠伽も一緒に作ってみる?」 さり気なく応じているつもりだが、上手く出来ているかは疑わしい。頬がとても火照っているように感じるから。けれどもまた、瑠伽もその麗しの(かんばせ)が薄紅に染まっている。気にしなくても良いのかもしれない。お互い様だったみたい、ふふふ。  瑠伽の仕事がオフの日に合わせて、私も出来る限りオフに出来るよう仕事のスケジュールを調整するようになった。出掛けなくても、こうしてイ一日中一緒にいられるのも至福だ。  長野での一件から二か月ほど経過した。あれほど緊張していたエスポワール家の夫婦同伴社交パーティーだが、拍子抜けするほどトントン拍子に事が運び、成功させる事が出来た。  一波乱あるだろうと構えていた事が、案外そうでもなかったり。逆に、大丈夫だろうとタカを括っていた事が思わず障害が発生したり。人生とは想定外の連続だ。思い通りにいかない事を嘆くのも、面白がるのも、無関心で流されるのも本人次第だ。  私は、今日も明日もを大切に瑠伽と生きて行く。周りへの感謝を忘れずにずっと。  そうそう、私の低糖質レシピを痛く祖母が気に入ってくれて、知り合いのとある出版社の編集長に声をかけてくれたらしい。近々、健康料理系雑誌の取材を受ける予定だ。勿論、瑠伽と共に。  
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