予兆

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私は慌ててそのタオルをベランダで叩いて、その黒い小さな虫達を落としました。 (洗濯物に虫がついてしまったのか?) (暖かくなったとはいえ、前の家でも洗濯物に虫があんなに付いたことはなかったのに。) どうしてだろうと思っているうちに、私はふと引っ越す前に、リフォームした後のこの家の様子を見るために、大家さんである事務の女性に案内され、ここに来たときのことを思い出した。 それは雨が冷たい11月の祝日で、玄関を開けて中に入ると、いくら誰も住んでいないとはいえ、家の中の空気は、外よりも冷たく感じられた。 (誰もいないからだろうけど寒いな)と、思った私であったが、まだ家具の置かれていないその家はとても広く、リフォーム後の新しいキッチンや浴室などを見せてもらい、ここでの新しい生活を思い描いて、(早くここに引っ越したいな)という気持ちが強くなっていた。 1階のリビングの和室には、大きな窓があり、防犯のためにリフォームの際にシャッターを取り付けてもらっていたので、それを確認をするために窓際に歩を進めると、畳に干からびた、小さな虫の死骸がいくつか転がっていたのだ。それは2階の和室のベランダに出る窓際の畳の上にも、同様の光景を見ることができた。 「どこから入って来たのかねぇ~」今はただのゴミとなっている虫の死骸を片付けながら、大家さんは言うが、リフォーム後しばらく時間が経っているので、(そういうこともあるよな。古い家だし。)と、その時はたいして気にも止めなかった。しかし今思えば、あの時の窓際にだけ固まっていた小さな虫達は、何かから逃げるために外に出たかったのだろうか?私はそのことを思い出し、何か得体の知れない気味の悪さを感じた。
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