ノンシュガー

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数ヶ月に一回、大学時代の友人達との定期近況報告と言う名の飲み会が開かれる。 佑自身そんなに友人関係は手広く無い故、安達含めた森下、津野、岡島と言った限られた四人でのこじんまりとしたものだが、場所はいつもの居酒屋。 「何か久しぶりねぇ!あんた達も元気そうで何よりだわぁ」 安達もいつに無く高いテンションでメニューを開く中、津野と岡島も、 「そうだよな、前に一緒に此処に来たのは五ヶ月前?」 「そんなに前かぁ、本当時間て経つのが早いよね」 と、久々の居酒屋でのイツメンに笑顔を見せた。 そんな中、 (俺は常葉と最近来たな…) なんて、こっそりと眼を泳がせる佑が居たりする。 男四人、早速ビールを注文し、各々が食べたい物を注文。 話題と言えば最初に仕事はどうだ?から始まり、上司がムカつくだとか、各々の忙しさを訴えたり等。そこから一時間もすればアルコールもかなり回り、誰と誰が結婚するらしいだとか、そう言えばアイツらが付き合い始めただとかの恋バナのウォーミングアップが出来上がる。 「あんた達は最近どうなのよ?」 安達もにやにやとしながら、友人達自身の恋愛における進捗情報を問うも、それにうんざりと言った風に肩を落とすのは岡島だ。 「僕は仕事が忙しすぎてそれどころじゃないよ。彼女に手が回るどころか、探す事も出来ないって感じ」 「俺もだな。ゆっくり恋愛してる暇もねーよ」 二十五歳、仕事にもすっかり慣れ、色々と責任のある仕事を任せられる様になっている。 津野も大きく頷きながら、ぐいっとコップを煽る。どうやらそれぞれ何の浮いた話も無いらしい。 枯渇した男達を前に安達のこれみよがしな溜め息は大きく響いた。 「何よ、あんた達つまらないわねぇ。あたしは常に恋してるわよぉ。だって素敵な殿方がたくさん居るんだものお。勿体無いじゃない」 「勿体無い精神はそう言う所で使うんじゃないと思うけど」 「岡島、ほっとけ。勿体無い精神があるからこそ成り立つ需要と供給があるんだよ。デブ専然り、B専然り、ってな」 「ちょっとっ!!それどう言う意味よっ、津野っ」 ぎゃいぎゃいと相変わらず煩い面子は昔と何ら変わりない。 肩を竦めつつ、焼酎のお湯割りを片手に素知らぬ顔で山芋のサラダに手を伸ばす佑だが、『あっ、そうだ松永』と声を上げた津野に顔を向けた。 「何?」 「お前由衣ちゃんの事大丈夫?」 「何が?」 「お前あの子SNSでだいぶ愚痴ってたよ。周りの女友達も『誕生日の次の日に振るとかサイテー』とか、『二年も女の子の大事な時間使っといて酷い』とかリプしてたし」 「あー…」 津野と岡島には安達の方からフォローがあったらしく、佑の事を信じてくれているとは言え、やはり友人の誤った情報が拡散しているのは気に入らないらしい。 「そうだよ、お前一回ちゃんと結衣ちゃんにガツンと言ってやった方がいいよ」 岡島も赤くなった顔で拳を握るも、どうでもいいと佑本人が思うのだから仕方が無い。 「別にいい、今更だし」 そう、今更だ。 事を荒立て、面倒事になるのも避けたい。 声を荒げる訳でもなく、然程哀愁等微塵も見せず、あっさりとそう告げる佑に納得いかないであろう岡島の眉間に濃い皺が浮かぶが、安達が『仕方ないわよ』と首を竦める様子に渋々とビールを含んだ。 「でもあの子って強かだったんだねぇ…ちょっと見る目変わっちゃうよ」 「何言ってるのよ、女は皆強くて逞しいのよっ、あたしだって儚げで、且つそこを目指してるんだからねっ」 「安達はもう極めてるよ…」 岡島に元球児の剛腕を贅沢に振りかぶり、おしぼりを投げつける安達の腕は本日も丸太だ。 そんないつも通りの賑やかな友人達との飲み会の最中、今度は安達がぐりぃっと首を回し、びくっと大きく揺れた佑はついでにハイボールを噴いた。 「な、何?」 「そう言えば、すっかり忘れてたんだけど、あんたあの日誰と帰った訳?」 「あの日?」 いつだ。 がじがじと骨せんべいを齧る佑がほんのりと血色の良くなった顔を向ければ、にやにやと笑みを見せつける安達に若干の恐怖が湧く。 「無職になるわ、コンテスト落ちるわ、由衣ちゃんに振られるわの3コンボ食らった日よ」 「……あ、あー…」 ついでに男と初セックスから処女まで失って4コンボの日ね、とは流石に言えない。 「気付いたらあんた金だけ置いてあるし、それと同時に綺麗な顔した男の子も居なくなっててさぁ。こっそりと眼福してたのに、がっかりしたわよ」 人の悩みを聞きながら、こっそりとイケメンをチラ見していたのだろうか、この男。 思わずジト目になりそうになるも、 「で、佑ってもしかしてあの綺麗な子と一緒に出ていったのかしら、って思って」 「……なるほど」 「あの子と一緒に飲んでた子達も、何処に行ったの〜ってプチパニック起こしてた女の子も居たからさぁ」 「…ぷち、パニック…」 あの誰をも魅了する容姿を持つ常葉。 もしかしたら、あの日常葉と約束、または期待して飲み会に参加していた女の子も居たりしたのでは? 同性である自分もあの容姿に一瞬息を飲んだ事実もあり、あれだけ整っていなかったら誘いにも乗らなかったかもしれない。 じわりと口内に染み渡る罪悪感。 「で、あんたと言えば意外と引き摺ってないし?もしかして、と思っちゃったんだけどぉ」 どう、あたしの推理? 口元に手を当て、うふふと眼を細める安達に他のメンバーも佑に注目。
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