ノンシュガー

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「えー、だって泣きそうな顔してんじゃん」 ぴょんと立ち上がり、常葉を見下ろしていた筈の視線が上に持ち上がる。 「今日も僕で癒してあげようかなぁーって」 にっこりと微笑む姿はそんな事微塵も考えていない様な無垢な笑顔だと言うのに、伝わってくる気配が佑の身体を一歩後ろへと下げていく。 「ほら、僕も今日の予定お断りしちゃったしさぁ。それにあれでしょ?」 「…あれ、?」 「あの場から逃げたかったんでしょ?」 にやぁっと笑うその顔。 それでも造形美は崩れないのだから、本物の美形とは恐ろしいものだ。 顔面を引き攣らせる佑とは大違いだと思われるが、そんな年上の男にお誘いを掛ける常葉のメンタルの強度も知りたい所。 「僕もさぁ、後ろ姿見つけて思わず出て行っちゃったんだけど、結構きてんじゃないの?」 伸ばされた常葉の右手が頬に滑り、左手はどんと胸を押され、不意にどきっと心臓が跳ねる。 じくじくと留まっていた痛みが、気持ちの悪さまで併発していたが、体温の暖かさなのかほんのりと和らぐ感覚は一体何なんだ。 「そう言う時ってさぁ、興奮に変換させるといいんだよ。あつらえむきじゃん」 「………」 「もしかして佑さんの家近い?タクシーでイケる?」 「…うん」 馬鹿だ。 返事なんてせずに誤魔化せばいいのに。 「じゃ、行こう♡」 「………」 差し出された手を掴まなければ、いいのに。 このアパートを内見した時、此処にしよう、と即決した理由は防音だった。 別に音楽を大音量に流す訳でも、無駄に声がでかい訳でも無く、かと言って隣の生活音が気になる神経質だとか言う事も無い。 ただ、静かに活動に没頭したい。 集中する為に出来るだけ音を遮断出来たらと思っただけ。 完全防音ではなかったものの、それでも十分だと満足し、この部屋が空いていて良かったと一年前は思っていたのだが、 (まさか、『こう言う事』で役に立つ事が来るとは…) ぐぽ、っと感じた事のない感覚と水音が混じり、後孔から感じていた圧迫感が抜け落ちる。 「大丈夫?すっげーボロボロぉ」 人の泣き顔を見て笑えるこの男のサイコパスぶりに、ぎりぎりと歯ぎしりするも額に唇を当てられ、乳首を撫でられると、それも萎えてしまう。 一度射精した心地良さも相まっているのだろうが、溶けそうなくらいの快感は嘘ではない。 チラッと視界に入る反り返った常葉の性器は直視するには刺激が強いと感じるも、指で散々慣らされたそこにぴとりと押し当てられると、ずくんと身体が竦んでしまう。 それが恐怖からなのか、、期待からなのかは自分自身よく分かってはいないが流石に後者は無いと思いたい。 けれど、 「ねぇ」 「……あ?」 とろんとしている頭に聞こえる声に反応が遅れる。 「今日は前からしない?」 「ま、え?」 ――前? 一瞬何を言われたのか理解出来ず、オウム返しに聞き返せば、ガシっと掴まれた脚が腹に着く程曲げられた。 一瞬で理解した、その意味。 「顔見ながら挿れたいなぁ、って」 紅潮した顔で笑ってみせるも、その眼はマジだ。抱えた脚を下ろす気配も伺えない。 しかし、男の顔を真っ向から見せて萎えないものなのだろうか。 ぐっと押し付けられるそれは硬度は失われていない様に思えるも、では自分はどうだと問われたら、 「…………好きにすれば」 「やった、言ってみるもんだよねぇ」 嫌な気持ちにも不快にもならないのだから、もうどうでもいい。 ぐぐぐぐっと入り込んでくる常葉の物を体内で感じると言うのは、二回目でも不思議な感覚だ。 せり上がってくる異物が腹の下あたりにある、それだけ妙な興奮を覚えてしまう。しかも、しっかりと過ぎるくらいに慣らされたのもあり、既に前立腺が浅ましく待ち構えているのか、擦られると腰が跳ね、目の前に星が舞う始末。 「あ、うぅん、…――っ、あー…」 「やっぱ、まだきっついけど…でも、気持いいー…」 たかが二回目、されど二回目。 どれだけ慣らされてもすぐには女性の様に入り込めないきつさに眼を細める常葉をちらりと見上げる。 室内は間接照明のみだが、輪郭やはっきりとした顔立ちが見えるこの位置。 (顔のいいやつは…どんな表情でも様になる…) そんな事を考えていれば、だいぶ馴染んだのか、ぐっぐっと数回に分けて腰を進める動きに再び息が詰まり、顎を引いた。 「動かしていい?」 「……もう、好きにしろって…」 一々お伺いを立てるのは彼なりの気遣いらしい。 これは女性もたまらないだろう。きっときゅんきゅんと心臓が鳴りやまないのでは? 何故なら顔の相乗効果もあり、男の自分でさえも粘膜を掻き分け進む常葉のペニスを締め付けるくらいに、きゅん、と心臓が打っているのだから。 そう言った理由もある為か。 キスは駄目だと前回言ったのを覚えているのか、噛まれる肩が痛い。 遠慮も無しに前立腺を叩きつけ、手加減知らずにピストンで悦に入る常葉は、佑の肩から顔を上げるとその腕を引っ張り上げる。 「いや、あ、ま、って、あああ、ふか、いぃ…っ」 もうまともに言葉も出せていないと言うのに何たる所業。 大人の男の身体を器用に動かし、座位の形を取る常葉はそれを薄っすらと笑みを浮かべて眺めるも、咎める程に余裕も生まれない。 自身の重みでもっと常葉のペニスを咥え込む佑の眼からまたボロボロと零れ落ちる涙が口に入り込む。 広がるのはしょっぱい味。 「ねぇ、」 水分の溜まった眼では歪む男の顔。 「キスしたいなぁ」 「……………」 本当に色々と甘くはない事だらけ。 此処に少しくらい甘みがあったってバチは当たらないのかもしれない。 お砂糖ひとつまみ程度。 「わ、っ、」 力が入らない腕を叱咤し、常葉の顔を掴んだ佑はゆっくりと唇を開いた。
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