毒を以て毒を制す

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そのアグレッシブさは何処から来ているのだろう。 若さ? 若さ故なのか? しかしだ。 「シャワー…くらいは、」 「そう?じゃ、ささーっと浴びよう」 (良かった…) なんて思ったのも束の間。 『じゃ、僕もシャワー♡』 服を脱ぎ終え、シャワーの用意をしている途中、当たりの様に飛び込んできた全裸の常葉にひっ…と身を竦めてしまった。 見た目では分からなかったが、佑とは全く違う割れた腹筋と引き締まった肢体。 身長が高いだけにそれだけで迫力は三割増しな上に付いている物も全く違っていた。 感想を述べよ、と言われたならば、エグイの一言。 他意は無くとも思わずマジマジと見入ってしまった佑は色々な意味でごくりと喉を上下させた。 酔って身体が上手く動かせないのをいい事にシャワーヘッドは取り上げられ、頭から一気に湯を当てられる。次いで泡タイプのボディソープを満遍なく塗られると再びシャワーを頭から。 ―――そして、 「じゃ、しよっか」 髪も乾かす事無く、言われるがままにベッドへと座った佑の頬が引き攣る。 何故やっぱりそんな軽いノリなのだろうか。 コンビニに行くノリではないか。 こちらは初めての海外、通訳コーディネーター無しの一人旅の気分だと言うのに。 アルコールの所為ではないドキドキとした動悸は、息苦しさまで生み出す。 折角頭をすっきりさせようとシャワーを浴びたと言うのに、ぼうっと頭が回らないのはきっとこの極度の緊張とシャワーが一切役に立たなかった所為だ。 「緊張してる?」 「…するよな」 「まぁ、深く考えないで貰ってさ。僕も男とやってみたいなって思ってただけだし」 「普通思わなくないか…?」 「僕って向上心と探求心と好奇心だけで出来てるから。失敗は成功の母だし、不可能って言葉も無いと思ってる」 偉人の詰め合わせパックの様な男だ。 いや、待って、失敗? 失敗って言った? 柔らかなシーツの上に押し倒され、肌に当たる質感の良いシーツと柔らかいスプリングが身体を労わる。 「えーっと、じゃあ、電気消したい…」 「あー…うん、まぁいいか」 ベッド脇にあるスイッチに手を伸ばし、天井にあったライトが消灯。 壁にある間接照明だけが仄かに灯った暖かい色味の室内に、再度訪れた瞼の重力は佑の身体の力を抜いていく。 またあの気怠さだ。 しかし、先程とは違う種類の怠さは不快なものではない。 「そうそう、僕が抱く側だけど分かってる?」 「…そうだろうなとは思ってた」 「はは、いいね、そう言う空気読めるとこ」 ちゅっと額の辺りで聞こえたリップ音と柔らかい感触。 (人肌気持ちいー…) 今迄の様な柔らかい肉感ではない、ごつごつとした自分と同じ男。 けれど、染み入る体温は確かに暖かく、労わる様に顔や首筋に当てる唇はどこまでも優しい。 「口にキスも大丈夫?」 「………やめとく」 「そっか。じゃ、おっぱいは?」 おっぱいはねーよ、とツッコミたい所だが一々こうしてお伺いを立ててくれる辺りが常葉の優しさと言うか、気遣いの出来るとこ、と言うか。 妙に可愛らしく思える感覚は佑の唇から、ふふっと掠れた笑い声を引き出してくれた。 「あとは、どこでも、いい」 「あは、えっちくていいね」 ちゅっと数回、右側の胸元に落とされたキス。 指先も左側の胸をゆっくりと撫で、感覚を楽しんでいるかのよう。 感じた事のない、くすぐったく、むず痒い痺れが脇腹辺りに溜まり出す。 無意識に身を捩る佑だが、重い身体が言う事を聞かない事に今更酔っ払っていたのだと言う事に、小さく唸りを上げた。 (…回り切ってる…) 無駄なプライドと気が張っていただけ。 想像以上に飲まれているのだと自覚し、唇を噛み締めるも、それも徒労に終わった。 ぬめりとした軟体動物が這う感覚。 「ひ、っ、」 「あ、乳首感じる?」 誤解の無い様言っておきたいが、今まで感じた事など一度も無い。 触った事も無ければ、触られた事も無いのだからそんな所が性感帯等知りもしない。 それなのにべろりと舐められ、そのまま常葉の口内に含まれてしまったそれ。 ちゅうっと音が聞こえるくらいに吸われれば、ずくんと下肢が疼き、咄嗟に身を屈めたが、いつの間にかしっかりと背中に回された腕がそれを許さない。 「うっ、あ、ちょ、とき、わ」 自分の胸元に顔を埋める常葉の肩を押してみるも、本日全くと言っていい程力の入らない腕は何ら役にも立たない。 ぼうっとした頭でも焦りは生じる。 (やべぇ…気持ち良い…) 含まれ吸われた乳首の根元を舌で押され潰される。その光景が見えていないのにリアルに伝わる快感に息が荒くなってしまう。 生まれる羞恥は勿論あるが、それを上回る快感に目元が熱くなると同時にふやけていく視界。 浅い息遣いが変態以外の何者でも無い気がするが、止められないのだから仕方が無い。 「きもちいい?」 「……うん」 揶揄の混じった声にも馬鹿正直に返してしまう。 ふふっと笑う声すらも心地良い。 相当頭もやられてしまっているんだなと、思う佑の手がゆっくりと常葉の頭を撫でた。 そんな流れでもう考える事も冷静になる気もとっくに消え失せて別れを告げた頃。
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