さらばアネモネ

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(可愛いやつは、やっぱり可愛いよな…) それは容姿だとかの外見だけではなく、仕草だったり喋り方だったり、 (自分の為に色々してくれる、) ーーーーとか。 スマホが震える。 素早い動きで反射的に画面を覗き込む佑だが、ディスプレイ表示されている名前は安達のもの。 ちょっとしんみりしていたタイミングで筋肉の介入により、少し萎えたのはセンチメンタル部分。 「……んだよ…はい、もしも、」 『あんた、今どこ?』 「は?牛乳買ってコンビニ出たから…あと、十分程度で戻れるけど?」 『え、あ、意外と早かったわね…』 「牛乳買うだけだろ?」 『あぁ、まぁ、そうね…』 珍しく歯切れの悪い友人に、ハテナマークを持て余す佑だが、そこの角を曲がればもう安達の店。 足を早め、もう着くぞと言い掛けたその時、 「え、」 ぴたりと足を止めると、そこを見詰めた。 安達の店の扉の前。 立っている人物に見覚えがある。 黒いロングのコートに白いマフラー姿の、 「由衣、が居る…」 『え?』 「由衣が、お前の店の前に居る…」 『はっ!!?由衣ちゃんっ!!?な、何で、そっち!?』 何やらブツブツと呟いている安達だが、貸切と書かれた扉の前の由衣は訝しげに眉を顰め、ドアノブに手を賭けようとしている。 「由衣っ」 「…あ、」 名を呼ばれ、びくっと顔を此方に向けた由衣に、歯軋りしながらも佑は安達へと小声で『取り敢えず話だけしてくる』と伝えると何やら騒いでいる電話を切り、すっと歩き出した。 「…何、してんの?」 「あ、会いたく、て」 「何で此処だと思った訳?」 まさかご丁寧に安達がクリスマスパーティーだとでもSNS上にでもあげたのだろうか、と頬を引き攣らせそうになる佑に、由衣は視線だけを上げる。 「家に行ったら、居なかったから…此処かな、って」 お得意の上目遣いだが、恐怖が勝った瞬間だ。 とりあえず少し離れた場所へと移動し、イルミネーションが見えるベンチへと由衣を座らせ、佑は自動販売機からコーヒーを二つ購入。 「ほら」 ひとつはブラック、甘い方は由衣へと。 「ありがとう」 ほわっと笑みを浮かべる由衣だが、優しい行為は此処までだ。 「で?何の用」 自分でも温度感の無い簡素な声だと自覚しているものの、今更甘い声なんて出せやしない。 むしろ寒くて早くこの会話を切り上げたいとすら思ってしまっているのだから、由衣に対する感情は本当に微塵も残っていないのだと再認識する形となってしまった。 「…あの、アカリから…聞いて、」 「アカリ?」 一瞬何者だと斜め上を見上げた佑は、あぁ…っと小さく呟く。 「佑から…チケット貰ったから、ご飯食べに行こう、って」 (やっぱり…) しまった。 言及もしなった故に今更ではあるが、自分が渡したと言う事は口止めをすべきだった。 行動は正解だが、発言は不正解過ぎる。 露骨に飛び出てしまった苦い顔をする佑には気付いて居ないのか、由衣はもじもじと身体を揺らしながら、缶コーヒーを掌で転がす。 「で、ね…相変わらず、優しいな、って…」 「いや、あれバイト先で貰っただけで…」 「私のこと…やっぱり一番私の事わかってくれてるなって…」 「いや、必要無いからあげただけで…」 「私、嬉しくなっちゃって…」 話が通じない。 いや、耳が悪いのか、違う、聞こうとしていないからだ。 (…コイツ) ふらりと後ろに倒れてしまいそうになる感覚は眩暈にも似た呆れ。 色々と痛いめを見たらしい由衣だが、これではどうしようもない。根本が駄目だ。 頬を赤らめている場合じゃないんだよ。 (お前…慰謝料まで請求されてるんじゃねーのかよ…) やってしまった事とは言え、こう言う所があるからだろ。 そう思わずには居られない。 「あのさ、由衣…」 「ね、佑…私たち、もう一度やり直せないかな」 「無理」 「…へ?」 だったら言葉は選べない。 真っ直ぐどストレートに、眼を見て、きっぱりと。 「俺、由衣の事好きじゃないから」 「でも、心配してくれたんだよね」 眉を八の字に寄せ、泣き出さんばかりの表情を見せる彼女に心は揺るがない。 「持田が困ってたから、俺も使わないチケットだったし、だったら、って思っただけ」 「アカリが…好きなの?」 なんでそうなるんだよ。 頭痛すらする。 だが、此処で引いたらまた同じ事が起きるかもしれない。何かある度に突撃されたりなんてしたら… だったら、 「俺、好きな人居る」 「やっぱり、アカ、」 「年下で、すげーいい奴なんだけど」 由衣の声を遮り、被せ気味に言葉を重ねれば、目の前の眼が大きく見開かれる。 「好きだな、って思うけど、才能ある奴で…俺と一緒に居たら駄目だと思って付き合ったりしてないけど、」 ーーーーけど、 「きっと、ずっと好き。だからお前とやり直すのは無い。これから先も無い」 本人に伝える事はもう出来ないけれど、想っている事だけは許して貰いたい。 思い出される常葉の笑顔。 いつかまた遠目からでも見れる日が来たら。 そんな未来を願い、何とか笑顔を作る佑に拳を固く握る由衣が見上げる。 「…付き合えないなら私ともう一度付き合ってくれてもいいじゃない…」 「だから…!」 あぁ、此処まで言っても駄目なのか。 苛立ちが膨れ上がる。 荒げたくないのに、声に乗る負の感情が重い。 けれど、 「佑が好きなの、僕だよ」 背後から聞こえた声に、佑の動きが止まった。
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