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「はぁ…お前ちょっとは自重しろよ」
「佑こそ何言ってんの?僕等言わば蜜月だよ?ラブいの絶頂期、あ…いや、違うな。多分天辺から落ちる事無いから…え、何?一生新婚みたいな?」
「もういいわ…」
自重なんて常葉の中には無いと瞬時に理解出来てしまった佑が深々と溜め息を吐くが、悪くは無い…と思っている事は絶対に言わないようにしようと心に決めた。
調子に乗り過ぎても困ると言うのもあるが、
(あんまり飛ばされ過ぎて、倦怠期が早く来たとか、嫌だしな…)
そんな風に思う佑はやれやれと肩を竦めるのだ。
*****
そのまま年末年始と何事も無く、恋人になってからの初めて尽くしを堪能。
蕎麦を啜りながら除夜の鐘を聞き、年を越す。
『今年もよろしく』
『よろしくぅー』
ついでに服を剥ぎ取られながらの挨拶で、どこの山賊よりもタチが悪いと悪態をつく羽目になった。
眼を覚ませば、早速と初詣へ拉致に近い形で引き摺られる事に。
人混みの中でも目立って仕方の無い常葉の隣に立つ佑の首元に巻かれているのはあの時返した筈のマフラー。
きちんとクリーニングされていたそれは常葉の手により直接巻かれ、ふふっと満足そうに笑う彼に、佑は胸いっぱいになってしまった。
お参りを済ませ、引いたおみくじは佑は吉、常葉は大吉と言う結果、書かれている言葉も【上手くいく】ばかりの羅列に、矢張り神からの課金はここでも影響があるのではと思わずには居られない。
「甘いもん食べたいなぁ。佑はどう?」
「あぁ、いいけど」
帰りに近くのしるこ屋に寄り、二人とも甘味を食し、何とも言えない多幸感に帰りは腕を組んでくる常葉を咎める事も無く、佑はこっそりと微笑みながら帰宅したのだ。
そんなダラダラしつつも、色んな意味で濃厚な正月を過ごし、四日目の朝の事。
「佑、今日から仕事だよね」
「おう、気を引き締めないと…」
少し腹回りもキツイ気がする。年を取ればとるだけこうして表に出てくるのだろう、引き締めるのは気だけではないようだ。
鮭のハラスを焼き上げ、白米と豆腐のみそ汁を朝食として食べ進めて行く常葉がふぅんと小さく呟く。
「じゃあさ、僕ちょっと今日から自宅に戻るわ」
「え、」
「何かあったらすぐに連絡して」
「あー…うん」
自分の家があるのだから戻るのは当たり前の事なのだが、冬休みいっぱいはこの家に居るのだろう、なんて勝手に思っていた佑はガツガツと食事を進めて行く常葉を見詰めた。
(そりゃ、そうか…うん…)
家に戻って掃除なり、洗濯なりやる事は色々あるのだろう。
新学期からの準備だって、課題だってまだあるのかもしれない。勿論それだけでは無く、友人と過ごす時間だって学生のうちは必要だ。
「気を付けて帰れよ」
「僕の事小学生だと思ってない?」
そんな会話をし、佑はバイトへと向かった。
(そっか…今日から帰ったら居ないのか…)
何となく寂しいと思うのは去年のクリスマスから二人で過ごす時間が濃厚だったと言うのもあるのだろうが、常葉が常に隣で引っ付いていた為、それが当たり前と思うくらいに。
明らかに洗脳に近い刷り込みとも言える恋人の行動だったのだろうが、それを疑問にも思わない割とチョロい脳みそを持つ佑はバイトに励みながらも、時折溜め息を吐いた。
*****
二日後にふらりとやって来た常葉は膝枕を要求。
「……は?」
一瞬何事かと夕食用にネギを切っていた手を止め、合鍵で当たり前の様に入って来た常葉に怪訝な眼を向けた佑だが、取り合えずと膝枕を実行してやると次いでぽんぽんとその背中を撫でた。
「うー…」
何やら唸っているのも聞こえるものの、突っ込んでいいのかどうかも謀れる。
そうして、約五分ほど。
「佑ぅ、ちゅー」
むくっと起き上がり、甘えるように手を伸ばす常葉に益々首を傾げるも、その形の良い唇へと自分の唇を押し当てた佑の肌は耳まで赤い。
せがまれるままにその後数回ほどキスを強請った常葉はまた小さく唸り、すっと立ち上がる。
「ありがとー」
「え、…うん」
「じゃ、またね…」
――――え、
此方を振り返る事無く、玄関を出て行く常葉を呆然と見送る佑の眉間の皺は深い。
(い、一体…何なんだよ…)
膝枕とキスをする為に来たと言うのだろうか。
自宅から此処まで?
行動が不可解過ぎるだろう?
「えー…」
一人疑問と共に残された佑に答え等知る由も無い。
遣り取りしているメッセージは特別変わった様に思えなかったが、その後、遣って来たのは二日後だ。
またふらりと現れ、ぎゅうっと抱きしめられたかと思ったら、またね、と去っていく。
それからまた三日後。
「佑、キス…して欲しいな」
「……おう」
玄関先で手を広げる常葉にまたちゅっと唇を当て、何だか少し疲労が見れるなと頭を撫でてやる佑の頭の中はもう疑問と疑念でいっぱいだ。
一体自分は何をしているんだと言う気持ちと常葉こそ何をやってるんだと言うそれ。
「お前、大丈夫なの?」
「うん、まぁね」
ふっと笑う常葉だが、すぐにその笑みを消すとじっと佑の眼を見て、ゆっくりと唇を開いた。
「あのさ」
「うん」
「しばらく来れないと思うから」
「うん?」
「佑に会えないけど、また連絡するね」
はぁ…っと溜め息を洩らし、じゃあね、とまた帰っていく後姿に何を言っていいのやら。
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