分かれ道の先

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もしや挿絵の作業が負担になっているのだろうかとも考えたが、三月の終わりまでで大丈夫と伝えてある。 こちらもまだ校正や推敲等、自分自身で読み返して遣りたい事もある。 (だったら一体何をやってんだ?) 学校も始まり、バイト先にだって顔を出す事も無い。 けれどメッセージを送れば返信はある。 こうして顔を出しては生存確認も常葉なりにしているのかもしれない。 (――まぁ、何か耐えられなくなったり困ったりしたら、頼るだろ…) 飄々として見える常葉だからこそ、物事に軽薄に見えてしまうがそれは器用故に何でも上手くこなしているからこそ。 もしかしたら今迄と違う何かに手こずっているのかもしれない。 だったら余計に口出しや手出しは無用だろう。 「…………倦怠期、ではない、と思う、しな…」 いくら何でも早すぎる。 それにわざわざハグをしに来る辺り、そんな事は無い。 ――――と、思いたい。 はぁ…っとここ数日止まる事の無い溜め息が室内に無駄に響いた。 そんな常葉の奇行にも似た行動を『最近どうなのよ、上手く行ってんのぉ?』なんて聞いて来た安達に伝えてみた所、 「はぁぁぁ?アイツ何してんのよっ!!!」 注文した水割りの入ったグラスをドンっとカウンターテーブルに叩きつけられる。 空っぽになったグラスと自分の顔面や周りに飛び散って行った酒を恨めし気に見詰め、無言で拭き上げる佑だがそんな事眼にも入っていないのか、安達の眉は益々釣り上がっていく。 「あんた達付き合ってまだ間もない半人前カップルでしょうがっ!!泣く子も黙るどころか、非リア充共がハンカチ咥えて咽び泣く時期よっ!なのに何も言わないで付き合いが疎遠になるとか有り得ないんですけどぉ!!」 「い、いや、そうかもしれんけどさぁ…その、愛情表現は普通にあるからさ」 「愛情表現だぁぁ?」 くわっと歪む顔面が女装筋肉男云々すらも凌駕する程に恐ろしい。 「何が愛情表現よ、口先だけだったら何とでも言えるでしょうがっ!!いい?男って言うのはね、好きだとか愛してるだとか、君が一番だよ、なんて下半身の為なら言えるのっ!!先っぽだけとか言いながら全部挿れるのを想定してるのっ!!」 「待て、別にそれ関係無くね?」 「あー、そうね。女だって普通に言うわよね、相手を騙す為なら」 「…………」 何だか耳が痛い。 つい最近の出来事を皮肉にからしを塗ったっくた様に言われている気がする。 「兎に角、何してんのか追及しなさいよっ、俺を差し置いて何してるんだーって!!」 「えー…気にはなるけど、問い詰めようとは思わないんだよなぁ」 「は?何、それあんたも何か割り切ってない?大丈夫それ?お前ちんこ勃起すんのか?」 「だから、そこは関係ないつってんだろっ!」 バンバンっとテーブルを叩く佑は少しだけぷくりと頬を膨らませると、眼を伏せた。 「何つーか…、そう言うところは信用してるし…俺の事ちゃんと好きだから、大丈夫、って言うか…」 そうだ。 結局会いに来てくれている常葉は、佑の事が大好きだと感じさせてくれる。 頭を撫でてやれば見えない尻尾が千切れんばかりに振られている幻覚すら見えると言うのに。 けっっっっっ!!!! 陰影濃い安達から衝撃波で大理石もぶち抜きそうな悪態が聞こえたが、作り直された酒が佑の前へと出された。 「あんたがいいならいいけど、不審な所があったらすぐに言いなさいよ」 「お前に言った所で何があんの?」 「決まってるでしょーお仕置きよぉ、あんな綺麗な子を合法的にお仕置きできるとか役得でしかないわ」 「…お前のタイプじゃねーだろうが、常葉は」 じっとりと睨み付ける佑にふふっとラズベリー色した唇を三日月に模る安達はそれはそれ、これはこれ、とウィンクひとつ。 「でもやっぱりガタイのいい男を泣かすのが一番よね」 と、いらん情報まで飛ばしてくれたのを、右手のスナップを利かせ叩き落す佑だ。 ***** それから一週間、常葉が佑の家を訪れるどころか、バイト先に来る事も無かった。 【お前元気にしてんの?】 【一応ね】 【大丈夫か?】 【うん】 淡々としたメッセージの遣り取りはあるものの、流石に心配になるのは当たり前の事。 (よし…) バイト帰り、意を決して佑はスマホをタッチしていく。 【俺に何か出来る事ある?】 余計な事はしないと決めていたにもかかわらず、こんなメッセージを送るとか、ウザいと思われはしないだろうかなんて不安はあるものの、ドキドキと複雑な感情渦巻く中、すぐに届いた返信に佑は勢いよく画面を開いた。 【エロいやつ】 (―――――ん?) 【エロい写真欲しい。一人でやってる動画でもいいから。すげー挑発したようなのがいいなぁ】 心配した結果がこれとは。 ひくっと頬が引き攣る佑の表情は正直だ。 (いやいや…無理、だろ…) つか、何だ挑発したような感じって。 スマホが割れんばかりに指に力を入れる佑には挑発なんてキーワードは無縁過ぎる。 (大体何でエロい写真な訳…?会いにくれば一発で解消されるんじゃねーの?) そこまで思い、ふと佑は足を止めた。 (……会いに来にくい状況、って事か?)
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