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片手にオレンジペコー
大好きな女の子はふわふわしたスカートが似合う笑顔の可愛い子。
スレンダーも好きだし、ふくよかで丸みのある体型も好き。
いつまでも触っていたいロングの髪もいいし、さらっと清潔感溢れるショートも捨てがたい。
すぐに赤くなる子も可愛いよね。
清楚系とか言われるけれど、こだわりはそこじゃない。
一番重要なのは割り切って遊んでくれる子でしょ。
ーーーーなーんて…
「やぎぃ、最近絶対におかしいぃーっ!!前はすぐに遊んでくれたのに、なんで遊んでくんないの!?」
「そうだよぉー、誘っても全然だし、連絡だって既読無視ってどう言うこと!?」
左腕と肩に張り付く女を見遣る事無く、スマホを操作する常葉の姿はさながら前衛美術、もしくは女の霊に取り憑かれた男の如く。
「…やぎ、お前それ何とかしろよ…」
折角のランチタイムだと言うのに全く味が分からない村山がざくざくとカツ丼に箸を差し入れていく。
「ちょっと、やぎ聞いてるのぉ!?」
「ねぇったらぁ!」
「うるさいよ、僕今恋人に連絡してんの。邪魔するなら怒るよ」
低い声はドスの効いた本気の伝わるそれ。
シンっとなった空間で、今度は食欲まで失せそうだ。
彼の好きなところ。
笑うと少し目尻が下がる。
あははっと大口を開ける姿は、高校生男子みたいでちょっと若く見える。
甘えて擦り寄れば、ふふって三日月型の眼と男のゴツゴツした手が優しく頭を撫でてくれる。
料理は特別得意と言う訳ではないようだけれど、自画自賛できる物が出来た時は、食べる時にそわそわと身体を揺らしているのがたまらなく可愛い。
お願いお願いって駄々を捏ねると、三回に一回くらいはしょうがねぇな…って耳を赤くするのも可愛い。
怒った時も、眉間に寄った皺は舐めたくなる。
真っ黒の眼に自分の姿が映ったら興奮する、それに段々と水分が溜まっていくのを見るのも好きだ。
身体の相性がいいって言うのも安い言葉だけど運命としか思えない。
初めて会った時は、普通の男で酔っ払ってるし、男同士のセックスを体験するにはもってこいだと本気で思っていたのに、もう無理。
居心地の良い空気感と流れる時間の穏やかさにすっかり虜になって、もう手放したくない。
初めての事ばかりでたまに戸惑ってカッコ悪い姿を見せても笑ってくれるのが嬉しい。
好きだから許せるし、一生懸命が可愛いと言ってくれる。
年上だし、余裕があるのかとも思ったけど、彼に言わせれば、
『お前だから、だよ…』
と、少し頬を膨らませる姿はきゅんなんてしてしまう。
あぁ、
「めっちゃ好きぃー」
「うるせぇ!!わかったっつーのっ!!!」
だんだんっと地団駄を踏む村山からは鬱陶しいと言わんばかりの空気をあからさまに放っているが、ふふっとご機嫌な男には通用しない。
「お前が聞いたんだろ、佑ってどんな人ぉって」
「いらんとこまで演出させんでいいんだよっ」
この常葉と言う男を骨抜きどころか、軟体動物の様にしてしまった男に興味があったのは確かだ。
しかし、聞きたいのはそこじゃない。
「普通に、こう言う事しててとか、えーっと、そう仕事とか、普段何してる人って話じゃんっ」
「んだよ、つまらないな村山」
「あああん!!!?」
学校終わりにそんな騒がしい会話をしながら歩く二人はちらちらと此方を伺う視線も気にはならないらしい。
元々常葉は他人の視線なんて当たり前、そんな常葉の隣に居る事が多い村山も、今ではすっかり慣れきってしまった。
「佑はねぇ、まだ喫茶店に勤めてる」
「あー…何かこの辺に近いんだっけ」
「そう。本当は理数系強くて大手企業の内定とか決まってたみたいだけど、蹴ったらしいよ」
「え、何それすごくね?」
「そう言う思い切りがいい所も好きぃー」
「…あぁ、そう」
しかし、そんな豪傑な常葉の恋人。
曖昧な想像が村山の脳内で次第に形になっていく。
(普通の男って言ってたけど、それなりにイケメンなんだろうな)
理数に強いと言うだけで出来上がる独断と偏見。
「ついでだし、バイト先行ってみる?」
「え、い、いいのか?」
「どうせ僕佑がバイト終わるの待ってる予定だし」
「お前…人を待つって事が出来るのか…」
「お前が今日仕上げたデッサン、明日無事だといいな」
恐ろしい予言を受けた村山の奢りが決定した。
「あ、いらっしゃい」
カランっと扉が鳴ったと同時に掛けられた声に常葉の頬がふふっと膨らむ。
「佑、お疲れ様ぁ」
「お前もな」
てててっと近づくカウンター席は常葉の特等席。
そこに座れば佑と会話も出来る、作業する姿を見るのも楽しいと良い事づくめらしく、ご満悦な様子に佑も思わず苦笑いを浮かべるが、
「あれ、お前のツレ?」
常葉の後でぼやっと立ち尽くす村山に軽い会釈をひとつ。
「あぁ、そうそう。ここ座んなよ」
自分の隣を指差す常葉に、あぁ、っと慌てて椅子に腰を下ろす村山だが、その視線はしっかりと佑の元へ。
ふ、
(普通ー…)
まさしく普通。
身長は高身長に入るのだろうが、顔立ちは大量生産型、二度見なんて皆無、すれ違っても気にもならない、十回くらい見たって覚えられるか自信が無いくらいだ。
「佑、これ村山」
「なんだその紹介…下手くそな英会話文かよ」
そうは言いつつ、村山の方へと向き直った佑はふっと目元を和らげると『初めまして』と唇を持ち上げた。
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