光の魔法使い

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光の魔法使い

 この世界は変わってしまった。  異世界からやってきた勇者たちの手によって。  昔は魔法といえば水火土風の4つの属性があり、それに光と闇を加えた6つの属性というのが定説だった。  あるいはそれに雷を加えた7つの属性。雷は光と同じなんじゃないか? ということで光に加えたり雷に分けたりで国ごとに6つになったり7つになったりしていた。  昔は国ごとの交通手段もなかったから別々の属性わけがされていた。A国では6属性、B国では7属性の魔法として体系分けされていた。それでも誰に教えられるわけでもなく大方6属性か7属性に分けられていたのは体系分けが違うだけで見ているものは同じだったということだろう。たまに火水木金土みたいに独特の解釈をしている国もあったけれど。  しかしその状況は異世界からやってきた勇者たちによって一変した。  勇者たちが正しい体系分けを持ち込み属性わけが統一された、からではない。  6つあるいは7つの属性のうちすべてに打ち勝つ最強の属性は光だった。そして勇者たちは光の属性を自在に操り、魔力のない者たちにもその力を付与していった。  ならもう光属性しかいらないんじゃね?   という結論にいたるのは当然の帰結だった。もちろん光属性にあって他属性にできないことはある、とされている。けれど実際のところ他属性にできて光属性にできないことはないといってよかった。  例えば、雨を降らすのは水属性の力だけれど雨を降らしてそれで植物が育ったり飲み水になっりするのは光属性で代用できる。光属性は命をつかさどる力だから。光属性によって水なんかなくても植物はすくすくと育つしのどの渇きも回復できた。  例えば、ものを焼いたり温めたり金属を加工するのは火属性の力だけれど、食べ物を焼いて食事をしたり、温めて体調を維持したり、金属を加工して新しい道具を生み出すのは光属性で代用できる。光属性は命、そして創世の力だから。光属性によって空腹は満たされ、体調不良は回復して、金属は加工することなく道具へと錬成された。  もう光属性しかいらない。  勇者たちの力によって分断されていた世界が統一されたのも大きい。それまで伝説級とされていた空間転移の魔法も勇者たちの手によって比較的身近なものとなった。世界はつながりグローバルな社会へ、価値観は統一され不必要なものは淘汰されていった。  世界はより便利なものに、勇者たちが元居た世界に近づいて行った。  それは大多数の者たちによっては望ましい状況であっただろう。けれどそうでない者たちも存在した。  それがそれまで勇者達が訪れるまで魔法使いと言われ畏怖された者達であり、6大属性、もしくは7大属性の光を除いた他の属性を極めんとする者たちだった。 「光よ、神具となせ、ホーリーランス」  ミズがぼそぼそと呟くと光の槍が形作られる。ミズにしてはなかなかいい出来だった。しかし 「ホーリーランス! 」  模擬戦の相手は光属性を無詠唱で操ることができた。相手が悪かった。  対戦相手の生徒の周りに複数のホーリーランスが形作られ、一気に放出される。ミズは自身のホーリーランスで身を守るのが精いっぱいだった。  なんとかしのぎ切ったミズが見たものは、再び対戦相手の周囲に発現した複数のホーリーランスだった。 「そこまで! 勝者コゥシン! 」  先生の判定が下る。勝者はもちろん対戦相手だった。  コゥシンはクラスでも、いや学園の中でもひと際成績が良く皆に期待される存在だった。それもそのはず、全属性に少しずつ均等に適性のある魔法使いだったからだ。勇者達が来る前であれば器用貧乏でしかなかったそれは、現代においては最も評価される能力といってよかった。  異世界の勇者達が考案し、大量生産された光の神具。それは全属性に均等な魔法適性を光属性へと変換するものだった。これにより、全く魔法適性のない物でも、いや、魔法適性が無いものの方が上手く光属性を操ることができるようになった。魔法適性がないとは言っても全くない人間はいない。少しづつ適性がある。それは即ち全属性に均等に魔力適性がないということは、全属性に少しづつ微量にほぼ均等に魔力適性があるということであり光の神具を使いこなすのに優れているということだった。  これまで権威を誇っていたそれぞれの属性魔法の使い手たちは、むしろ魔法使いとして劣る存在となってしまった。ミズのように単体属性に特化したものはわざわざその属性を封じ込まなくてはならなくなってしまった。最もそこまで極端なのは例外であり、ほとんどの者はまばらに魔法属性を持っているのだが、その場合が一番問題だった。全ての属性の魔法力を調整しないと光属性は使えない。属性封じのアイテムは一つ付けるくらいなら問題ないが、複数付けると精神に変調をきたす。全ての属性に魔力がまばらに配分されていた場合、全ての属性を均等に調整しなくてはならず、5つも6つも魔力封じのアイテムを身につけなくてはならなくなった。そして並みの魔法使いがそんなことをすれば精神に変調をきたし発狂することになった。  世の中には魔法適性の無いものの方が多かったから、そういった大多数が一気に魔法を使うことができるようになり、しかもそれまで君臨していた属性魔法の魔法使いたちよりも強力な魔法を使うことができるようになった。それにより魔法使いの地位は一変した。今までの権威が全く意味の無いものとなってしまった。本来ならば旧体制である属性魔法の魔法使いたちが自分達の利権を守るために圧力をかけるところだったが、勇者たちの手によりそれもできず、技術革新は速やかにそして無情にも行われた。  魔法適性が無いものの方が逆に均等に魔力を持っていたため、光の魔法に対する適応があったのは事実だが、中には例外もいた。元々均等に属性魔法を仕えた者たちだ。それだけならどれも中途半端でしかないからものにはならなかったが、光の神具があれば話は別だった。魔力を持たないが故に均等に魔力を持つ者よりも、さらに強力な光魔法を操ることができた。コゥシンがまさにそれだった。 「ふん。雑魚が。あんなレプリカが無ければ評価されることもないゴミなのに」  ふわふわと、ミズの右肩の人造精霊が毒づいた。  ミズの一族は代々水系統の魔術を極めるためにあらゆる手段を費やしてきた一族だった。この人造精霊はそれを補佐するための存在であり、またその全てが集約された存在だった。言うなればこの人造精霊を神に変えることが、ミズの一族の悲願と言ってよかった。水魔法を極めた先にあるもの、それは水と言う存在そのものと一体になることであり、この世界の水という存在に自分自身が置き換わることだった。神とは即ち万物を創世した存在。いくら力を得ても創世した存在でないならそれは神とは言えない。ならばそれに自分自身が置き換わってしまえばよい、それが神になるということでありミズの一族の悲願だった。   「いい勝負だったね」  コゥシンはそういうとミズに手を差し伸べた。  女性のように美しい、華奢な身体。優雅な物腰。その洗練された容姿も相まって先輩後輩問わず女性からの人気も高い。皆をまとめる能力にも長けている。先生達も彼には特に目をかけていたはずだ。まさに非の打ちどころのない人物。  少し前なら上に立つ者と言えば力で皆を従わせる痛烈な個性、絶対の力、筋力体力持久力が必要とされていたが、現在はモチベーター、象徴としてのリーダーが好まれる状況にある。以前なら彼のようなタイプは実力がありこそすれ正しく評価されはしなかっただろう。もしかしたら男色化の餌食となっていたかもしれない。けれど今の時代において彼は最も必要とされる男と言ってよかった。 「ありがとう、ございます・・・」  比べてミズはと言うとその真逆。能力のいびつさから先生達には気にかけられてはいるが、それはコゥシンとは全く別の意味でのことだ。  本来ミズほど単体属性魔力に突出した存在は属性魔法を封印しきれず光魔法を使うことができない。それでも使うことができるミズは大変なレアケースであり、まるで腫物を触るように扱われていた。  コゥシンは将来を嘱望されていて目をかけられているが、ミズは将来を心配されて保護されているようなものだった。
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