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【着席】
某県F市の島にあるフェリー乗り場から、数十分で着く離島。観光地の端に位置する海沿いのコテージへ、真夏の夜に流れる生暖かい風が、開け放たれた小窓へ入り込む。さざめく波の音も、屋内に転がり込んだ。
「そろそろ頃合いじゃないか?」
壁に背を預けて凭れ掛かる男。その整った顔立ちの口端には、緩い笑みが滲む。
「そうね。でもイレン、長話になると思うわ。座ったほうがいいんじゃないの?」
紅一点。モデル体型の女が期待を膨らませながら、イレンと呼ぶ男に向けて言葉を弾ませる。
「イレンは少し変人なんだよ、ラヴラ。顔と思考の両方が整っている人類が居たと
したら、それは人の形をした神様で、事件だ」
背筋を正して椅子に座り、円上の机に両腕を組んだ細身の男が、ラヴラと呼ぶ女を意識し続ける。
「またか……イレンもラヴラもツユキも、現実で色気づくのは勘弁してくれ。せっかくの旅行が修羅場になる。な? コオルもこりごりだろ?」
椅子が小さく見える程の大柄で筋肉質の男が、ため息を吐きながらコオルと呼ぶ男に同意を求めた。
「ネットでも現実でも、僕は気にしないさ。でも、ボヒズと二人で話すのは少しだけ飽きてきたから、ここらで賛成しておこうかな」
小柄の男が気分屋丸出しの口調で、ボヒズと呼ぶ男に返事を零す。
奇妙な名で呼び合う五人は、ネットで知り合ったホラー好きの男女だった。
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