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美桜が通い始めてもうすぐ一ヶ月になろうとしていた。しかしここ三日ほどパタリと来なくなり、毎日来ていた連絡も途絶えた。来れなくなるという話は聞いていなかったし、来なくなる前日まではいつもと変わらない態度だった。
「さくら、なんかやなことあったのか知らんけど、真顔で貧乏揺すりすんのやめてくんない?顔に合わなすぎて怖いんだけど」
おとが苦笑いしながら私の足に手を置く。はあ、とため息をつくとヤニ臭えと一喝された。
「そういえば最近毎回きてたさくらの女オタちゃん、今日もいなかったね」
「うん。そう、マジでさー、うざ。ホスト行こっかな」
「さくらから言うなんて珍し。行っちゃう?」
「でもおとの彼氏の店、名前忘れたけどめっちゃラインしつこいのいて無理」
「うわ、行ってないのにそれきもいね」
「でしょ。だからパスで」
おとは私が悩んでいる時、機嫌がそぐわないとき、いち早く気づいてくれて声をかけてくれる。だからおとにはなんでも話してるけど、このことはなんとなく言いづらかった。
家に帰りスマホを見てもメッセージはなかった。避けて来たけど、連絡をしてみるか。私にしては思い切った判断だ。それほどに美桜への関心が高まっていることに自分でも驚いた。ラインの美桜の画面を開いて文字を打ち込む。
───「最近来ないけど、なんかあった?」
送信をなかなかタップできない。ずっと無視してたのに急におかしくない? 興味示してるって思われるのはずくない? んー、んー。でもこのままモヤモヤするのもなんかうざいし。しばらく画面とにらみっこして、覚悟を決める。送信を押すと、メッセージが送られた。
「あーもう、なに、なんかやだ!」
好きな人に連絡をするのをためらってるみたいな感じがしてムズムズした。全然違うけど。既読がつかないか、返事がこないか、気になって何度もトーク画面を開いてしまう自分が気持ち悪くて、スマホの電源を落として眠りについた。
朝、目が覚めてスマホの電源を入れると、大量の通知の中に美桜からのものがあった。他のを全部スルーして、トーク画面を開く。
───「愛生ちゃんから連絡してくれるの初めてじゃない?めっちゃ嬉しい!実は今、家族と旅行に来てるんだ〜明日帰るからそしたらまた顔出すね。お土産はなにがいい?」
途端に何かが冷めて返事をせずに画面を閉じた。ベッドに寝転びながら布団を頭からかぶって、猫のように丸まる。
なんだ、家族旅行。へぇ、あっそ。結局そうだよ、わかってた、あの子は私とは違うってわかってたのに、なにを期待してたんだろう。
「バカみたい」
虚しさと苛立ちが心をかき乱す。ベッドから動けない。そのままなにもする気になれず、バイトをばっくれた。
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