推して、愛して。

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 私の人生は最悪だった。でも世の中からしたら、良い家に生まれたと言われるんだろう。父は医者、母は看護師、姉は医者の卵。都内の高級一等地に住んで、幼少期から私立の学校に通い、習い事もして、望むものは割となんでも手に入った。恵まれている子供だったと思う、環境的には。でも実態は全然そんなもんじゃなかった。父はずっと仕事でほとんど家にはいなかった。大学受験に失敗した時、唯一言われた言葉を鮮明に覚えている。 「お前は期待外れだ」  自分でもそう思うけど。実の父親に言われるのはキツいものがあった。ずっと姉と比べられてきた。姉はなんでもできた。勉強も運動も、礼儀も気遣いも。順当に人生のキャリアを積んでる。私は全部そこそこだった。何も秀でるものはなく、普通。でもできる姉がそばにいたら、普通じゃダメだった。八十点を取っても、九十五点を取った姉がいたから褒められなかった。コンクールで銅賞をとっても、金賞をとった姉がいたからダメな子だと言われた。母は一度も私を認めてはくれなかった。 「どうしてお姉ちゃんはできるのにあなたは出来ないの」 「なんでお姉ちゃんみたいになれないの」 「お姉ちゃんを見習いなさい」  これが母の口癖だった。姉は優しかった。姉の真心(まこ)だけはいつも味方をしてくれた。泣いている私を慰めて、お菓子をくれた。でもある時、姉が忘れ物をしてそれを届けに行ったあと、私がもういなくなったかと思ったのか、私の話を友達としているのが聞こえた。 「ああ、あれ?妹。えー全然可愛くないよ、超ブスだし。私より全然なんも出来ないの、いつもママに怒られてて惨めだから相手してあげてるんだー。そしたら懐いちゃって、ウケる」  別人みたいにキャハハと笑う姉の声が怖かった。それから鏡を見たり姉に会うとブスと言われていたりするような気がして、マスクをして出歩くようになった。そして高校を卒業してから、何もかもを捨てて、家族に頼ることもなく、バイトで貯めた僅かな資金だけを持って、相談もなく家を出た。それから家族とは一切関わっていない。  そんな父の目の前に今更現れて、取り合ってもらえるとは思わない。だけど、それしか手がない。私にできることはこれくらいだから。美桜のためならなんでもやると決めた。美桜が何かに悩んでいるなら救ってあげたい。そのために本当のことを知る必要があるんだ。
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