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翌日、いつも通り美桜の病室を訪ねた。早く会いたくて思わず走ってきたら、廊下は走らない、と小学生ぶりに聞くセリフで看護師に怒られてしまった。入る前に、深呼吸をする。泣かないように、息を整える。
「美桜ちゃんおはー」
声をかけると、美桜はベッドから勢いよく起き上がってキラキラした目で私の手を握った。もちもちだった美桜の手は、前より骨ばっていた。
「愛生ちゃん聞いて、明後日退院できるって!」
「ほんと?やったね、おめでとう」
「うん、早くライブ行きたいしメイドカフェも行きたいなあ、空も連れてく約束したから」
「えー、アイツはいーよ」
しっしとジェスチャーをすると、美桜はなんでよーと笑った。大丈夫、いつも通りできてる。美桜から話してくれるまで、私からは何も聞かないと決めた。聞きたいことも言いたいこともたくさんあるけど、ちゃんと待とう。美桜はきっと話してくれる。
「あのさ、愛生ちゃんの誕生日っていつ?そういえば聞いてなかったなーって思って」
「三月三日、ひな祭りで覚えやすいでしょ。美桜ちゃんは?」
「え、めっちゃ運命。あたしも三月、二十七日だよ」
すごーいと嬉しそうにする美桜を見て、嬉しくなる。あと一ヶ月くらいか、絶対当日お祝いしたいな。
「そーだ、合同誕生日旅行しようよ!」
「なにそれ」
「あたしたち意外と飛行機乗って遠出とかしてないでしょ、行ったの大阪くらい?いい機会じゃん、ノートにもまだいっぱいあるし。お互いの誕生日も兼ねてさあ、行こうよ!」
出先で急変したり体調を崩したりしないか心配だったが、あまりにも楽しそうで断ることもできなかった。
「もー、仕方ないな。どこいきたいの?」
美桜はベッド横の机からノートを取り出して開いた。見せられたページには美桜が書いた桜の木の絵と一緒に、沖縄で桜が見たい、と書いてあった。以前たまたま何かのサイトで見て、行きたいねと二人で話していた。ちょうど今の時期、二月下旬が見ごろだ。
「明後日出発ね」
「はやっ!飛行機とかホテル手配しなきゃじゃん、ほらじゃあ調べるから向こう行こ」
携帯の通信可能エリアに移動して、ネットで予約しながら旅行のプランを立てた。明後日から二泊三日。私が明日、美桜の服や下着だけ持ってきて、退院したその足で空港に向かおうと言った。本来なら、その日は帰って荷造りをして次の日に出発にした方が何かと都合がいい。でも美桜がそうしたいと言ったのは多分、時間が限られているからだ。明後日は退院ではなくて、一時的な外泊許可なのだろう。数日後には病院に戻らなきゃならない。だから一日でも早く行こうとしている。私は美桜のプランに賛成した。
「じゃあこれで。明日荷物多くて大変だと思うけど、ごめんね」
「んーん。じゃ明日ね」
家に帰って、美桜の荷物を詰めながら少し泣いた。母にはこのままずっと実家にいてもいいと言われたが、そうはしないことにした。母には、たまには帰るねと言うと少し寂しそうに微笑んだ。だって今はもうここが私のお城だから。私が作り上げた大事な場所。美桜との思い出もたくさんつまってるこの家が、今の私の居場所だと思うから。
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