推して、愛して。

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 三日目。今回の旅行のメイン、桜を見に行くこと。那覇市にある与儀公園では二月中旬から下旬にかけて、なはさくらまつりが行われている。一般的に桜として認知がある、ソメイヨシノではなくてカンヒザクラと呼ばれる早めに咲く種類の桜らしい。公園中に咲いたそれは、濃いピンク色が綺麗に色づいていた。 「…もう桜は見れないと思ってた」  美桜は桜を見上げて言った。その横顔は嬉しそうで、寂しそうだった。 「この色のも綺麗だね」  本当は、これからも毎年見よう、と言いたかった。でもそう言ったら美桜は困った顔をするかな。 「うん。桜っていろんな種類があるんだね、全部違うけど、全部素敵」  風が吹いて桜の花びらが散る。すると花びらが一枚、私の髪に落ちた。美桜はそれ取って微笑んだ。 「さくらが似合うね」 「…こっちのセリフだよ」  公園を散策しながら、露店に出ていたここに咲いている桜を押し花にして作ったという髪留めをお揃いで買った。この桜みたいに、記憶ごとずっと閉じ込めておけたらいいのに。  荷物を持ち空港へ向かって、夕方の便に乗った。機内では、これがどうだったとかあれはこうだったとかたくさんの話をした。でも二人とも、これからのことは口にしなかった。お互いに、先なんて見たくなかったんだと思う。三日間の思い出に浸りながら、東京へと戻った。 「愛生ちゃん、ほんとありがとね。めっちゃ楽しかった、最高の思い出だよ」 「こちらこそ。ちょー楽しかったよ。これもこれも、愛生の宝物」  ピアスと髪留めを指差すと、あたしも、と笑った。 「じゃあ、またね」 「ん。気をつけて」  背を向けて歩く美桜を思わず抱き留めそうになった。大丈夫、きっと明日も会える。そう信じて、別々の電車に乗った。
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