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「お疲れさまでしたあ」
最後にお泊まりをしてから三日後、今日は私の誕生日だった。バイトが終わってそのまま落ち合う予定だったが、今日の朝からラインの返信もなく、バイト先にも来なかった。嫌な予感がしてスマホを開くと、父から、美桜が運ばれた、と連絡が入っていた。何となく近い将来、こうなってしまうことは予想していた。でも早いよ、まだダメ、まだ。スマホを閉じて、病院へと走った。
「あの、すみません、天馬美桜さんは…っ」
息を切らしながら病院の受付でそう尋ねると、少々お待ちくださいと言ってお姉さんが調べてくれた。もし、万が一のことがあったら。考えるな、大丈夫、美桜なら絶対。
「先ほど手術が終わって、ICUに入ったみたいですよ。エスカレーターで七階へお上がりください」
「ありがとうございます」
お姉さんの様子やICUに入ったという情報から、最悪の事態は免れたのだと想像できた。軽く頭を下げて七階へと向かった。このフロアはICU専用になっている。辺りを見回して美桜の部屋を探す。少し奥の方に、美桜の家族がいるのが見えた。直接会ったことはなかったが、写真などで見せられていたことや、母親は何となく雰囲気が似ていた。そこへ向かうと、ガラス越しにいろんな器具や管で繋がれてベッドに寝ている美桜が見えた。美桜の母親が振り返り、私の存在に気づく。
「もしかして、愛生ちゃん…?」
「あ、はい。愛生です、はじめまして」
頭を下げて挨拶をすると、美桜の母親は涙ぐみながら笑った。
「愛生ちゃんのことは、美桜からよく聞いていたわ。会えて嬉しい」
美桜の母親はガラスに手を当てて、心配そうに、そして大切そうに、美桜を見ていた。
「何とか一命をとりとめたけど、もう結構、時間はないみたい」
そう言って美桜の母親が泣き崩れそうになるのを父親が支えた。そのまま近くの椅子へと案内して二人は腰掛けた。私はただ美桜を見つめた。
それから二日後に美桜は目を覚ました。その連絡は美桜の母親からだった。何かあった時は一番に連絡をすると、連絡先を交換していた。病室の中には、防護服を着た美桜の家族が面会をしていた。私も防護服を羽織り中へと入る。白血病の患者は免疫力が低いため、外部との接触や感染症を予防するためにも厳重な環境整備が置かれている。ベッドの周りを覆っているビニールカーテンを潜ると、酸素マスクをつけたままの美桜がこっちを見て微笑んだ。
「愛生ちゃんだあ、会いたかった」
「やっほ、美桜ちゃん」
力なく笑う美桜は、前のようなハツラツな様子とは言えなかった。美桜の手を握ると、手袋越しでも体温が低いのがわかった。握り返してくる力も弱々しい。
「愛生ちゃん、お誕生日、おめでとう。遅くなっちゃって、ごめんね」
美桜にそう言われ、我慢していた涙が溢れた。美桜はボロボロ泣く私を見て、大袈裟だと笑った。
「美桜ちゃん、美桜ちゃんにも言わせてよね、ぜったい、ぜったいだからね」
「うん。世界中のチョコ、たのしみにしてる」
二人で笑い合う。小指を絡ませて指切りをした。
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