推して、愛して。

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 それからのことはあまり覚えていない。美桜がいなくなってから何日経ったかも覚えていない。ずっと家にいたまま、食事も睡眠もせず、呼吸だけを続けている。まるで生ける屍だ。美桜の母親やともきから、葬式が行われるからきてくれという連絡があった気がするが、そんなの行く気になれるわけがなかった。何が楽しくて美桜が死んだと認める場所に自分から足を運ばなきゃいけねーんだよ。私は美桜がいなくなった後のことを考えていなかった、考えないようにしていた。だからいざそうなってみると、自分がどう生きればいいのかわからなかった。美桜と出会う以前のことはもうは忘れてしまった。 「美桜ちゃん…」  ふと目に入ったのは、屋上で渡された美桜からの手紙だった。愛生ちゃんとしたいこと、と書いてある美桜の文字。ここに書いてある中のいろんなことをした。でもまだ全部叶えられてないよ。手紙の最後には、愛生ちゃんがしたいことをしたい、と書いてあった。 「愛生が、したいこと…」  美桜の願いを叶えたくて、美桜と一緒にいれたらそれで良くて、考えたこともなかった。美桜に会えたら、答えが見つかるような気がした。思い立って立ち上がる。久々にメイクをした。喪服なんて持っていない。でもきっと美桜なら、いつも通りの可愛い愛生ちゃんで来て、と言ってくれる。だからとびきり可愛くしていこう。お気に入りのワンピースを着て、髪も綺麗に巻いて。最後に美桜からもらったピアスとお揃いの髪留めをつけて美桜の家に向かった。
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