推して、愛して。

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 生きる意味とか、生まれた理由とか、存在価値とか、ふと考えてみたりする。結局答えなんかでなくて、そのあとに残るのは虚無だけ。耳元のイヤホンから流れる音楽は、君が生きている世界は素晴らしいなんて歌っていて笑える。生まれたくて、生まれてきた人間なんていない。生(せい)は自分では選べない。でも、死は選択できる。死にたくて、死ぬ人間がいる。私は今まさに、それになろうとしている。 「さっむ」  十月も終わりになる夜は、秋といえども肌寒い。ましてや、高所となると一層風も強く吹く。私が今立っているのは、高校の時計台の上。横から風が吹くたびに、髪が視界を遮る。耳に髪をかけて、ライダースのポケットにしまっていたスマホを取り出して画面をつける。時刻はまもなく0時になろうとしている。  ついでに音楽を変えよう。音楽アプリのプレイリストを開いて、曲を選択する。最期に聞く音楽は、やっぱりこれがいい。再生をタップするとイントロが流れ出す。画面の表記は、SEKAI NO OWARI の『スターライトパレード』になる。  上を見上げると、雲ひとつない夜空に数個星が浮かんでいた。この曲を聞きながら満点の星空を見てみたかったけどな、なんて思いながら、都内はこんなもんかと目を閉じて、それを想像する。音量を上げて爆音で流れる音楽を聞きながら、その世界に浸る。数分して、音楽が止まるとイヤホンを外す。一緒にマスクも外して、スゥと息をする。急に静かになった世界で、一人取り残されたような気持ちになる。すると背後からガタン、という音が突然響き、反射的に後ろを振り返った。 「えっ、」  何もないはずのそこに、人影を見つけ思わず声が出た。暗闇の中で、しっかりと把握できないが、間違いなく誰かいる。相手もこちらを認識しているような感じだ。  でもあり得ない、こんな時間に、こんな場所に。警備員は警備室で寝ているのを確認してきたし、ぼんやりと見えるシルエットからはそれほどガタイも良さそうではないし、むしろ華奢で、女の子のような。 「あなたはそこで、何してるの?」  人影から話しかけられ、少しビクッとし肩をあげる。声からして、やっぱり女の子だ。恐る恐るその声に答える。 「そっちこそ、何?」  しばらく沈黙した後、もう一度声が聞こえた。 「あなたを見つけたから」  そう言うと、影はゆっくりとこちらへ近づいてきた。 「…なに、やめて、来ないで」 「死のうとしてたの?」 「っ!」  声が出ず、思わず目を見開く。何者なの、誰なの、なんでそんなことを聞くの、得体が知れないことで恐怖がふつふつと湧き上がる。 「それ以上近づいたら本当に死ぬから!」  俯いて目をぎゅっと瞑り、大声をあげる。 「わかった。怖がらせてごめんね」  ゆっくり顔を上げて目を開くと、数メートル先に見覚えのある顔があった。 「やっぱり、愛生(あき)ちゃんだ」 「…美桜(みお)ちゃん」  ふふ、と笑った顔が可愛いのは高校の時と変わっていない。 「覚えててくれたんだ、嬉しいな。また会えたのも」  彼女と認識して改めて顔を見て声を聞くと、なんだか胸がキュッとなるのを感じて思わず下唇を噛んだ。彼女はまたゆっくり私に近づく。先程の恐怖はなくなっていた。淵の一段高くなっているところに立つ私の目の前まで来て立ち止まると、私に向かって手を伸ばした。 「一緒に死のう、愛生ちゃん」  まさかの提案に、えっ、と声を漏らす。彼女の顔をみると、その表情は思ったより穏やかだった。 「あ、でも今すぐにってわけじゃなくてね。ちょっとした条件付きで」 「…条件?」  彼女は一旦手を下ろして話を続けた。 「死ぬまでにやりたいことを考えながら生きて、やりきったら死ぬの。どう?」 「別にやりたいことなんてないんだけど」 「じゃあ私のやりたいことに付き合ってよ、ね?」 「何それ、愛生にメリットないし。一人でやって、死にたいなら死ねば?」 「えー、そんなこと言わないでさ。一人で死ぬの寂しいじゃん。せっかくなら愛生ちゃんとがいいなあって。ダメかな」  なかなか引き下がらないのが面倒くさくて、はあ、とわざとらしくため息をついてみせた。 「どっちにしろ人に見られながら死ぬような悪趣味ないし、今日は死ぬ気失せたから帰る」  段差から降りて彼女の横に立ちそう告げて、出口に向かう。すると後ろから腕を掴まれ、同時に声がした。 「待って愛生ちゃん!せめてラインだけでも交換してくれない?また会いたいから」  とことんしつこい。そういえば高校の時もこういうとこあったな。自分勝手っていうか、傲慢っていうか。だる。 「ライン開いて貸して」  振り返らずにそう言うと腕を離して、私の前にラインの画面が開かれたスマホを差し出した。自分のスマホを取り出し、QRコードを読み取らせ友達登録をしてから返した。 「じゃーね。…美桜ちゃん」 「またね、愛生ちゃん」
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