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弱点をさぐれ!
私はお父さんをぎゃふんと言わせたい。数か月来の私の願い。一見すると謙虚そうに見えるけど実は偉そうにするあの言動。あれはモラハラする勇者だ。弱い仲間を蔑む勇者。強者こそ正義と威張りくさる勇者。私は認めない。強いだけでは勇者になれないのだ。
「えもいえぬ」とかじぶんで言っちゃってるくせに「エモい」って言ってなぜいけない。私はひきずる粘着タイプだから忘れない。「えもいえぬおいしさですね」ってなんだ。あのときのシェフを見る眩しい表情。私はしつこいのだ。勇者から受けた侮蔑の数々。今もなお胸の奥でくすぶる復讐の冷たい炎。
お父さんが愛車のレクサスで出勤したあと、単刀直入にお母さんに聞いた。というか詰めよった。あの無敵のお父さんに弱点はあるのかと。どうして突然そんなことを聞くのと、困惑する優しいお母さん。いつものパターンだ。
悪意というモノがお母さんの純粋世界には存在しない。だからあのお父さんは優しいお母さんと結婚できたんでしょうね。皮肉ではなくそう思う。相性だ。完全にして完璧すぎるからお母さんみたいな純粋無垢な美しい人と結婚できたのだ。お母さんはお父さんに騙されれている。私が言えた義理ではないけど、あんな性格のわるい人間そうそういない。
お母さんは泣きそうな顔つきだ。お父さんに意地わるしようとしている私の悪意を純粋無垢フィルターが感じとったのだ。乙女ですね、お母さん。お姫様みたいなお母さんのやさしさにつけこむ横暴なあの勇者。いや、お父さん。父親だからって娘になにを言っても許されると思うなよ。
と、悪の炎をめらめら滾らせていてふと気づいた。
弱点。
勇者の弱点。
最強であるがゆえの最大の弱点。
姫だ。
お母さんだ。
私はとっさに言った。お母さん目がけて言い放った。今日は彼氏とお泊りすると。夕方に出かけると。
私の発言にお母さんはうろたえるだけだろう。なぜ引き止めなかったとお父さんはお母さんに注意したいけどお母さんが姫だから注意できないだろう。結果お父さんは困るだろう。私の筋書きだ。
私はわるい笑みを浮かべていたはずなのに、お母さんは「あらそうなの?」と嬉しそう。「彼氏どんな子なの?」と食い気味だ。私は進学校の16歳。しかも女子高生。しかも父親ゆずりの性格のわるさ。だれが好んでこんな非道な女子のあいてをする。彼氏なんているわけがない。
うろたえる私を尻目にお母さんはなおも「こんどおうちに誘ったら?」とかなり乗り気だ。娘が男子と○○○するかもしれないという危機的状況なのにへいぜんと構えている。むしろ嬉しそう。お母さん謎すぎる。
私はお母さんを困らせてやろうと思って、○○○しちゃうかもしれないよと言うと「あら、万理恵もそういう歳だものね。赤ちゃんできないように彼氏にも気をつけてもらうのよ」とほほ笑む始末。ダメだ。天然なのか本気なのかわからない。ある意味お母さんが最強なのではないか。
私は作戦変更を余儀なくされた。私は同じ歳の高校生男子を彼氏と想定して嘘をついていた。お母さんもそう思いこんでいるようだった。それだから軌道修正した。お母さん勘ちがいしてるみたいだねと。彼氏っておじさんだよと。デートして○○○すると1万円もらえると。
それまで私は知らなかった。謎のヴェールに覆われてきたお母さんの正体を。
直後、私は生まれてはじめてほんとうの恐怖を味わうことになったのだ。
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