海の心臓

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 昔、じっさまがよく寝る前にお話をしてくれた。  物心つく前から両親を亡くしていた縄次(なわじ)は、それをいつも楽しみにしていた。じっさまの話は不思議な話もあれば、自分が今まで死闘を繰り広げてきた獲物の話だったりした。  時には怖い話もあった。「しばしば海に魅入られて正気を失う人間がいる」という話を聞くと、しばらく海に入れなくなったものだ。  「シャチの銛三(もりぞう)」と呼ばれるじっさまは、誰もが認める島一番の漁師だった。どれほど時化た海だろうが銛を片手に恐れず飛び込み、息ひとつ切らさずに獲物を仕留めてきた。じっさまは島の生ける伝説となっていた。縄次は自分も大きくなったら、じっさまのように偉大な男になりたいと強く願った。
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