海の心臓

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「……」  気が付けば、縄次はあの岩場の元へと戻っていた。自分を取り戻した縄次は、ただ目を熱くしていた。心に溢れる感情を整理するのに時間が必要だった。  海水を吸うと、体内で己の血肉となり細胞に染み渡った。そうして吐くとそれは海水に戻り、新鮮な活力だけが身体に残った。頭を岩に思い切りぶつけたはずだが、傷ひとつ付いていない。海が身体を補填してくれたのだと気付いた。この青い世界のすべてが手に取るように分かった。 「そうか、これがじっさまの見た世界なんだな」  目の前にはあのマグロが自分を見ていた。銛を引き抜いても暴れすらしない。ナイフで命を絶つ時さえも、マグロは何の抵抗もせずに縄次を受け入れた。縄次は海の一部となったのだ。  どこか夢見心地で海中を進む。海水は身体を阻むことがない。何の抵抗もなく、魚のようにすいすい泳ぐことができた。 「帰ろう、じっさまが待ってる」  心は、両親からの愛で満たされていた。
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