5人が本棚に入れています
本棚に追加
「とっくに一人前の海の男だろうに。お前ほど度胸のあるやつはおらんよ。お前はおれの誇りさ」
「ありがとう。でもそれだけじゃ駄目なんだ。よく言えないんだけどさ、じっさまは他の人間と違う。どう言えばいいのかな……まるで自分が海と繋がってるみたいだ」
その言葉に、じっさまはぴくりと片眉を上げた。
「じっさまは必ず潜ってから一分以内に魚を仕留めてきた。毎回だぜ? 小さなアジから厳ついマグロまで。そんなことができる人間はいないよ」
「早けりゃいいってもんじゃないさ」
「別に、漁の凄さがどうこうって話じゃない。泳ぐにしても突くにしても、じっさまは誰よりも自由だ。海への理解度が段違いなんだ。俺はその世界に行きたい」
縄次は真っ直ぐな眼差しを向ける。
「お前はじゅうぶんな腕を持っているさ。それよりも早く嫁さんをもらって、このじじいを安心させてくれや。お前ならちゃんとやっていける。立派になった孫に幸せな家庭を持たせてやらんと、おれは死んだ糸一と春波さんに顔向けできんよ」
「むむ……」
そう言われるとどうにも弱い。縄次は顔をしかめながら言う。
「まあいつかは結婚するさ、心配しないでくれ」
「まったく。どうしてお前はそこまでおれの背を追うんだ」
「じっさまは俺の憧れなんだよ。子供の頃からあんな風になりたいと思ってたんだ」
「この野郎」
じっさまは照れてぷいとそっぽを向く。この孫は平然とこのような台詞を人に向ける。真っ直ぐすぎるのも困りものだ。
最初のコメントを投稿しよう!