海の心臓

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 一週間後、縄次はひとりで漁に出ていた。燦々とした光がうなじを焼く。海中に身を投じると、青く澄み渡る世界が縄次を迎え入れた。幼い頃から慣れ親しんだ世界だ。  銛を握り、伸びやかな動きで潜っていく。火照った肌が水に触れて冷やされていく。どれだけ太陽が喚こうが海の世界には介入できない。冷たい海水の中では頭が冴えた。耳元でこぽこぽと水音が揺れる。そのまま辺りをうろついてみると、珊瑚が並ぶ海底に一匹の魚を発見する。  カンパチだ。縄次は気配を殺して銛を構えた。  獲物は白い砂利に顔を近づけている。刺激を与えないようそっと近づき、銛先を解放する。銛先は鋭い直線を描き、その背をドズッと貫いた。確かな手応えが重みに変わる。  背骨を狙えば大人しくなることを、今までの経験により知っていた。こいつは背骨が無傷なままだと、縦横無尽に暴れ回って抵抗するのだ。縄次の右頬についた切り傷は、暴れるカンパチの尾にやられたものだった。  縄次はカンパチを引き寄せ、ナイフで脳天を貫いた。がぱっと獲物の口が開く。傷口から流れる真っ赤な血が水を濁らせ、魚は絶命した。息が少し苦しくなってきたので浮上する。 「ぶはっ」  磯の香りを胸いっぱいに取り入れながら、縄を獲物の口からエラに通してくくりつける。まず一匹目、今日は幸先がいい。
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