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それからも縄次は素潜りを続けた。しばらくして三匹の魚が捕れた。途中で見事な真鯛を見つけたのだが、縄次が視線を向けた瞬間に機敏な動きで逃げてしまった。
魚の中には、驚くほどに命の危機に敏感なものがいる。そいつらは歴戦の強者だ。遠ざかる尾を眺めながら、じっさまなら仕留めていただろうなと思うのだった。
海の心臓。それに出会うとどうなってしまうのだろうか。
じっさまは今までそんな話をしたことがなかった。どうして今になってそれを教えたのだろう。自分にあんな話をしたのは、日に日に迫ってくるじっさまの死と無関係ではない気がした。
じっさまは、もしかしたらもうじき死んでしまうのではないだろうか。だから、海の心臓の存在を自分に教えたのではなかろうか。そんなことを考えると、縄次は今すぐじっさまのために、自分の命でも何でもやりたくなった。
大好きなじっさまを失ってしまえば、自分はひとりぼっちになってしまう。そう考えると、じっさまが嫁をもらえと口うるさく言うのは、死後に自分を孤独にさせないためのような気がするのだった。
そろそろ帰ろうか、そう考えたその時だった。
「……!」
少し先に、銀色の輝きがゆらゆらと漂っている。
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