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「……あ、やっぱり夢?」
跳ね起きたベッドの上。頬に伝う涙を、志保は手の甲でぐっと拭った。
五歳のあの日、『命』は消えたらもう二度と蘇らない事実を思い知った。
ゲームとは違って現実には『復活の呪文』なんて存在しないことを、ゲームに触れるずっと前に突き付けられたから。
以来、志保は十二歳になる今までペットを飼ったことはない。
両親にはあれからも何度か勧められたが、ハムスターも犬も猫も、なんであれ小さな命と暮らすのが怖くなったのだ。
彼らは必ず、自分よりも先に逝く。またそれを見送らなければならない。──志保の中にあるのは、もう無理だという感情だけ。
今の夢は、志保の無意識の願望が見せた都合のいいものなのかもしれなかった。飼われているハムスターが本当に幸せを感じていたかどうかなど、わかる筈もないのだから。
けれどモモが、人間から見たらほんの一瞬の短い命を精一杯生きたことに変わりはないのではないか。それを志保が、上から一方的に「可哀想」と哀れむのはきっと違う。
初めて、心の底からそう感じた。
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