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『あんたなんて死ねばよかったのに,なんでまだ生きてんの!』
『あんたみたいな泥棒,さっさと死ねばいいのに! 自分がなにしたかわかってんの!?』
『最悪なんだけど! なんでこんなことをしたの!?』
憎悪の塊が降り注ぎ,見えない暴力に押し潰されていく感覚に息が詰まった。頭のなかを憎しみが込められた言葉で満たされ,心臓が激しく鳴り響いたがその音さえも憎しみに汚されていった。
まともに高校すら卒業できずに,クラスのみんなから責められた記憶に悩まされ,父親の暴力に何もできずにいたが,いまは知らない部屋で不自由な身体になってこうして高台にあると思われる建物の一室にいる。
気がついたときには周りから精神も身体も壊れていると言われ,常に覚えのない泥棒扱いを受けながら除け者にされ避けられた。
記憶の中にいる優しかった母親は,もういない。すぐに暴力を振るう父親は母親の失踪後,後を追うようにどこかへ消えてしまった。
記憶に残る父親の姿は,馬乗りになって鬼のような形相で自分を殴り続けているところと,感情を失って呆然と立ちすくむところだった。
『なんでお前は周りに迷惑ばかりかけるんだ! なんでお前は家族に迷惑をかけるんだ! いつから人の金に手を出すようなクズになったんだ!』
拳に混じって降り注ぐ父親の熱い涙が不快で,なぜ優しかった母親はこんな男を好きになったのだろうと薄れゆく意識のなかで考えていた。
「しょうがないよな……人生,課金しないと進まなかったんだから……そもそも無理ゲーなんだよ,レアアイテムがないと……自分みたいなのは生き残れないんだよ……」
心の中で繰り返し呟いていると,目の前に降り積もる埃が這いずり回る蟲によってゆっくりと消えていった。
「なん……だよ。せっかく時間の経過がわかる唯一の埃だったのに……」
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